九羊の一毛
これから冷え込むだろうし、とそこまで深く考えずに了承すると、玄くんは目を瞬かせた。
「……いいの?」
いいのって。玄くんが提案してきたのに、どうしてそんな顔するの。
首を傾げる。彼の瞳が揺れて、「もう」とその唇が息を吐いた。
「冗談。そんな簡単に頷いちゃだめでしょ。……絶対我慢できなくなる」
耳に寄せられた声が、悩ましげに囁く。こそばゆくて肩が跳ねた。
「で、でも……玄くん、卒業するまでしないって言った……」
「うん、しないよ。しないけど……それぐらい羊ちゃんが欲しいってこと」
ちゃんと知ってて。
そう付け足された艶っぽい声色に、顔が熱くなる。
「我慢出来たら、その後はいっぱいちょうだい」
「玄くん……」
「死ぬほど我慢するから。だから……俺の全部、羊ちゃんで満たして」
「ん、」
彼の唇が耳朶を掠めて、思わず体が震えた。
繋がれた手に力がこもる。はあ、と熱い吐息が降ってきて、それにすら背筋が伸びた。
「羊ちゃんさ、耳弱すぎ……そんな可愛い反応されると辛い……」