九羊の一毛
どうしてくれるの、と眉根を寄せる玄くん。そんなことを言われても。何だか理不尽だ。
私は精一杯反論すべく、口を開く。
「だって……」
「だって?」
「玄くんの声が頭の中、いっぱいになって……ぶわーって……」
なるんだもん、と。そこまでは言えなかった。
彼が再びこちらに頭を埋めてきたかと思えば、弱りきった声が聞こえてくる。
「だめ。待って……ほんと、そういうこと言わないで……」
「えっ、ご、ごめんね」
「違う……そうじゃ、なくて」
つと盗み見た彼の耳が赤い。
「羊ちゃんが可愛すぎて、我慢できなくなっちゃう……」
苦しげな様子に、ほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。
付き合ってからもやっぱり何だかんだ優勢なのは彼で、私の方が圧倒的にどきどきさせられているなと感じていたから。
こんな彼を見られるのは私の特権だって、性懲りもなく優越感に浸りたくなった。思いのほか、嫉妬を引きずっているのかもしれない。
繋いでいるのとは反対の手。彼の頭を労うように撫でると、「ずるい」と怒られて、何だか笑えてしまった。