九羊の一毛
デートって何話せばいいんだっけ。ていうかそもそも、これデートって言っていいの?
若干不服そうに隣を歩く彼女を見やる。
決して良い雰囲気とは言えないが、それでも気持ちが浮ついて抑えられそうになかった。
『この後、帰らないで玄関で待っててほしいって。西本さんが』
坂井にそう言われた時は、めちゃくちゃ動揺した。それはもう、めちゃくちゃに。
いやだって、考えてもみて欲しい。
半年以上やり取りをしているにも関わらず一向につれない彼女が、そんな誘いをしてくるなんて夢にも思わないだろう。
しかし蓋を開けてみれば、西本さん自身の提案ではなかった。
彼女が俺を見つけた時、「もう、羊の馬鹿!」と叫ぶなり踵を返したので、慌ててその腕を掴んだのだ。
『えっ、ちょ、ちょっと待って。何で逃げんの? 酷くない? 俺待ってたんだけど』
『知らない! どうせ羊が変な気利かせたんでしょ!』
というのも、彼女は元々白さんと出かける予定だったが、先に帰っててと言われたらしい。玄関で待っている人がいるからと。
俺はそんなに分かりやすい態度を取っていただろうか。白さんにはお見通しだったというわけだ。
何はともあれ、彼女のおかげでチャンスが巡ってきたのだから、感謝しなければならない。
「西本さん、甘いの好き?」