九羊の一毛
西本さんがいい加減この空気を打開したかったのか、不意に質問を投げてきた。
さっきの俺のキモい発言は水に流してくれたんだろうか。それは謎だが、彼女の声色からは刺々しさが読み取れなかったので安堵する。
「あー……っと、ここ」
ちょうど見えてきた看板を指さして答える。
彼女は俺の視線の先を追いかけて、思わず、といった様子で立ち止まった。
「……たい焼き?」
白地に黒い文字ででかでかと書かれた、「たいやき」の四文字。
ここのたい焼きが、まあ旨い。俺は初めて食べた時に衝撃的すぎて、黙々と作業をする店主に話しかけてしまったほどだ。
「ここのあんこそこまで甘くないし、大丈夫だと思うけど……ごめん、嫌いだった?」
彼女の芳しくない反応に、不安になって問いかける。
「あ……いや、そうじゃなくて。意外で」
「え?」
「津山くんも、こういうとこ来るんだなーって……」
もっとお洒落なカフェとか行ってるイメージあった、と続けた西本さんは、唐突に小さく吹き出した。
何となく気恥ずかしくなって、俺は視線を逸らす。
「わ、悪かったですね、洒落てなくて……」