九羊の一毛
そんな俺に、彼女は「ううん」と首を振った。
「いいと思う。私も好き」
「えっ」
「たい焼きね」
「ああ、うん……」
馬鹿みたいな勘違いをしそうになって、内心自分の頭をぶっ叩く。
暖簾をくぐって顔を出すと、店主の奥さんが「あら」と俺に気が付いて顔を上げた。
「岬くん、久しぶりやねえ。いらっしゃい」
「どうも」
「今日はお友達と……あ、ちゃうか。彼女さんと来はったん?」
「えっ!? や、違います、友達で……」
ぶっこまないで欲しい。慌てて否定してから、恐る恐る隣を窺う。
西本さんと目が合ってしまって、どきりと体が強張った。
「知り合い?」
俺の心配とは裏腹、彼女は純粋に疑問をぶつけてくるだけだった。
それにほっと胸を撫で下ろして、緩く首を振る。
「前にめっちゃ通ってて……仲良くなっちゃっただけ」
「へえ」
一見薄いリアクションに思えるが、僅かに目を見開いた彼女が実は結構驚いているというのは、理解しているつもりだった。
「岬くんは、チョコクリームでええの?」