九羊の一毛
食べ物に頼っている時は会話に困らなくて助かる。
徐々に普段の調子を取り戻してきた俺は、思い切って聞いてみることにした。
「西本さんさー」
「なに?」
「いま彼氏いるの?」
俺の質問に、西本さんは特に顔色を変えるわけでもなく淡々と答える。
「いないよ」
「ふうん」
「ふーんって。聞いてきたのそっちじゃん」
許して。興味ないフリするのが精一杯だから。
彼女に届くわけもない言い訳を胸中で並べる。また気まずくなるのも嫌で、俺は話を続けた。
「俺はいると思う?」
「えー、知らない。いるんじゃない?」
「西本さんも興味ないじゃん」
脈なしっと。分かってたけどさ。
めちゃくちゃ好きかって聞かれると、微妙。玄みたいのを比較対象にされると、俺のこの感情は恋でも何でもないんだと思う。
でも、何となく。何となく気になって、落ち着かなくて、彼氏がいないって聞いてちょっと嬉しい自分がいる。
「津山くんさ」
「うん」
「私のこと、好きなの?」
むせるかと思った。いや、むせた。
盛大に咳き込んだ俺に、彼女は告げる。
「いや、そんなわけないのは分かってるんだけどさ。何ていうか……こんなこと、色んな子にしてるんだなあと思って」