九羊の一毛
今度は息が止まった。
どういうこと。どういう意味。嫉妬? それって、焼きもち?
「悪いよねえ、ほんと。優しくするのだめとは言わないけど、こんなんじゃ勘違いされても文句言えないんじゃない?」
「え、」
「好きじゃないのに期待させるって、津山くん見かけによらず残酷だよね」
――違う。軽蔑、だ。
彼女はなんてことないように話し終えると、一口たい焼きをかじって「うん、やっぱり美味しい」と頷く。
『西本さんも興味ないじゃん』
それを、いま身をもって体感した。
罵られるよりも、下手したらもっと遠い。浮ついた気持ちなんてとっくに消え失せて、途端に呼吸がしづらくなる。
馬鹿だ、俺。もしかしたらなんて、一ミリでも期待してた自分が本当に馬鹿らしい。
中途半端な自分を毅然と否定されて。いや、否定されてもいない。
彼女はあくまで持論を述べただけなんだろう。臆さず言えるのは、俺に嫌われても構わないから。俺を何とも思っていないから。そういうことだ。
「……津山くん?」