九羊の一毛


結局俺は、何も変わっていなかった。
奥手すぎて相手を不安にさせるのも、その逆も。どっちみち女の子を傷つけていることに変わりはなくて、曖昧に正当化しようとしていた自分を彼女に見透かされた。


「ごめん」


突然目の前から謝罪が飛んでくる。
視線を向けると、西本さんはばつの悪そうな顔をしていた。


「……ちょっと言い過ぎたね」


その気遣わし気な優しい表情は、普段白さんや友達に向けられているものだった。それと同等の慈悲を俺に差し出してくれているのが、やっぱり彼女の人柄の良さだと思う。


「いや……謝んないで。その通りだと思うし」

「流石に謝るよ。気にしなさそうだなって思ったから言ったけど、絶対気にしてるよねその顔」


彼女が再度「ごめんね」と眉尻を下げた。一度目より更に柔らかい声色に、不覚にも泣きそうになる。

気にしなさそうだから――そうか、彼女なりに俺を傷つけないラインを守っていたつもりだったんだ。どうでもいい、そんな感情ではなくて。
友達としての慮りだったとしても十分だ。突き放されていたわけではなかった。


「……私、津山くんにはいつも馬鹿正直に言っちゃうから。反省は、してる」

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