九羊の一毛
「……カナちゃん、どうしよう」
教室に着いて早々、荷物を机の上に置いてそう零した私に、カナちゃんは振り返って眉をひそめた。
「どうしようって……何が?」
先程バスから降りて玄くんの顔を見た瞬間、私はとんでもないことに気付いてしまった。
「チョコ、忘れた……」
「え」
何を隠そう、今日は二月十四日。
去年は友達や部活の先輩に、とチョコを用意していたけれど、今年はそれに加えてもう一つ、大事なものを用意しなければいけなくなったわけで。
玄くんと付き合ってから初めてのバレンタイン。彼氏がいる状態でこのイベントを迎えた経験は今までなかったし、そもそも彼が人生で初めての彼氏だ。
「その袋、チョコじゃないの? 忘れたってどういうこと?」
カナちゃんが私の手元を指さす。
いつもの鞄とは別に、少し大きめの紙袋。バレンタインの日は大体、みんな大荷物だ。先生たちも気付いてないわけはないんだろうけど、見ていないふりをしてくれる。
「うん、チョコ、なんだけど……これはみんなの分っていうか、友達とかにあげるやつで」
「あー、義理チョコか」