九羊の一毛
坂井が踵を返したのを合図に、みんなは心底安心したように自分の席へと戻り始めた。
なーにが俺の頼み事聞いてくれるから大丈夫、だって? そんな馬鹿なこと言っちまったのはだーれだ?
「俺だよ……」
はあ、と深いため息をつく。
玄が俺の言うことを聞いてくれたことなんて、片手で数えられるくらいしかない。
「おーい、女子の文化委員決まったか~」
肩を落としていたところへ、先生の声が頭上を飛んで行った。
「白さんですー!」
と、その言葉に顔を上げる。
あれ。白さんって、つくもさん? あのつくもさん?
「じゃあ白と狼谷、よろしく頼むぞ」
女子が集まっている方へ視線を投げた。
俺と同様、肩を落とした小柄な女の子が一人。近くにいた友達に両肩を掴まれて、がくがく揺さぶられていた。
「なあ、白さんってあの子?」
すぐ隣にいた男子に思わず声を掛ける。
勝手に玄を文化委員にした責任から、彼の相方がどんな子なのかが気になった。
「ああ……『ヒツジちゃん』?」