九羊の一毛
納得したように頷くカナちゃんも、例に漏れず紙袋を抱えていた。そこから一つ小さな可愛らしい袋を取り出すと、「はい」と差し出してくる。
「羊の分ね」
「わ、ありがとう! カナちゃん、今年も手作り?」
「うん、まあ。ガトーショコラ焼いた」
「え~楽しみ!」
部活のみんなから手先の器用さに定評のあるカナちゃんは、料理も得意だ。
私は慌てて、ピンクの袋を一つ取り出した。
「私のも……ごめん、ちょっと手作りでは、ないんだけど……」
「あはは。いーよいーよ、ありがとう」
鷹揚に手を振ってからそれを受け取って、カナちゃんが笑う。
「まあ本命がいたらそっちに精出すのは仕方ないっていうか、義理にまで手回んないでしょ」
「あ……ええっと、」
「ん? あ、忘れたんだっけ」
再び巡ってきた話題に、う、と肩を落とす。
そう、忘れた。もう何の事情も理由もない。
用意はしてあった。ただ、朝出る時に玄関に置いたまま忘れてきてしまったのだ。要するに、シンプルな凡ミスであって。
「羊らしいよ、ある意味」
「うう……情けない……」