九羊の一毛


本当に情けない。それに加えて――


「狼谷くんには何作ったの?」

「そ、それが……私もガトーショコラ作ろうとしたんだけど……」


あろうことか、壊滅的に失敗した。
元々料理はそこまで得意ではなくて、毎年バレンタインはチョコを溶かして固めるだけの簡易なレシピに頼っていたのだ。流石に本命チョコでそれはいけない、と背伸びしてしまったはいいものの。
綺麗に膨らんでくれないし、中の方が生焼けだし、とにかく人に食べさせられる状態ではなかった。

そんなわけで、保険にと買っておいた市販のチョコを彼に手渡そうという結論に至ったんだけれど。その保険すら家に忘れてくるというポンコツっぷりだ。


「言ってくれれば一緒に作ったのに」


事の顛末を聞いたカナちゃんが肩を竦める。


「うん……でも、やっぱりちゃんと自分で作ったものあげたいなと思って……」


結局失敗に終わったけども。
自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、カナちゃんが苦笑しつつ励ましてくれた。


「まあその気持ちが伝われば狼谷くんも喜ぶんじゃない?」

「気持ち……」

「そ、気持ちだよ気持ち。別にチョコじゃなくたって、手紙でも何でもいいと思うけど」


確かに、そうだよね。好きな人に、大切な人に自分の想いを伝える日。

少しだけ前向きな思考が戻ってくる。ありがとう、とカナちゃんに告げて、私は顔を上げた。

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