九羊の一毛
ああ、心が痛い。
気持ちが大事とは言っても、やっぱりちゃんと渡したかった。
「ごめんなさい!」
頭を下げて、固く目を瞑りながら言い切る。
「私が今日一緒にいたいって言ったのに……その、チョコ、忘れてきちゃって……」
正直に言おう。それがせめてもの償いだ。
肝心なところで大ポカをやらかす彼女で申し訳ないけれど、彼に嘘はつきたくない。
「本当は手作りしようと思って、でも失敗しちゃって……だからあの、既製品なんだけど、明日は絶対持ってくるね……」
もう一度「ごめん」と付け足して、彼の顔を窺う。
玄くんはしばらく目をぱちぱちと瞬かせ、それから口を開いた。
「なんだ。別にそんな気にしなくていいよ」
「えっ、い、いや流石に……」
あまりにも淡泊な回答に、少々面食らってしまう。あまりイベントは気に留めないタチなんだろうか。
「……玄くん、隣行ってもいい?」
恐る恐る申し出ると、彼は「いいよ」と頷いた。
立ち上がって、隣に腰を下ろす。思い切って彼にぴったりとくっついてみた。
「羊ちゃん?」