九羊の一毛
不思議そうに問いかけてくる声。
無造作に放り出されていた彼の手を握って、隣を見上げる。少し体を伸ばし、彼の唇に自分のものを押し付けた。
「玄くん、……好き」
玄くんにとっては、バレンタインなんてそこまで重要じゃないのかもしれないけれど。やっぱり今日は私から彼に伝えたい。いつも溢れんばかりの愛情をくれる彼に、精一杯の想いを。
「いつもいっぱい幸せにしてくれてありがとう。玄くんと一緒にいられて、私はすっごく嬉しい」
「羊ちゃん、」
「大好きだよ」
真面目に話そうと思ったのに、照れ臭くて笑ってしまった。
玄くんは虚を突かれたように目を丸くして、でもしっかり顔は赤い。
「今日くらい私から何かあげられたらなあって思ったんだけど、だめだめで……ごめんね」
チョコもなくてごめん、と言った刹那、力強く抱き締められた。
「……いいんだよ」
「玄くん?」
「バレンタインでも何でも……俺は、羊ちゃんが隣にいればそれでいい。羊ちゃん以外、いらないよ」
ぎゅう、と拘束が強まる。
彼のひたむきさに、胸の奥が痺れた。その背中に腕を回して、しっかり抱き締め返す。
「……私も、玄くんがいればそれでいい」