九羊の一毛
吐息交じりに私を宥める声が妙に色っぽくて、心臓がうるさい。
再び重なった唇を受け入れ、彼の首に腕を回した。
「ん……今日の羊ちゃん、可愛すぎて……止まらなくなったらどうしよ、」
はあ、と苦し気なため息が彼の口から零れる。
切なそうに、何かに耐えるように。顔をしかめる玄くんの唇を、自分のものと重ね合わせて。
「そうなったら……私のせいにして、いいよ」
だって、そんな顔してるのは私が困らせたからだよね?
玄くんの頬が真っ赤に火照る。ここまで盛大に赤面する彼は初めてだ。
「……大事にしたい、から……卒業までは死ぬ気で我慢する」
手の甲を口に当て、玄くんが目を伏せた。そろそろと視線をこちらに向けて、縋るように言う。
「だから、今日は……キスだけにする」
ちょっと子供みたい。抱き着いてきた彼に、そんな感想を抱いた。
バレンタインでも、そうじゃなくても。私たちは心に大きな愛を蓄えていて、それを交換し合うことを厭わない。だから私は安心して彼の隣にいられるし、彼だってそうなんだと思う。
「羊ちゃん」
「ん?」
「もっかい、好きって言って……」
すっかり甘えん坊な彼だけれど、それさえ愛しいんだから、どうしようもないんだ。
「玄くんが大好き」