九羊の一毛
「じゃあカナちゃん、明日ね」
「うん、頑張って」
「ありがとう……」
羊が軽く拳を握って頷く。
狼谷くんと二人で帰るという彼女に手を振って、一人ため息をついた。
教室にはまだ人が残っていて、少し浮ついた雰囲気が漂う。
その中に目当ての人物はいない。当たり前だ。ついさっき、女の子に呼び出されていたから。
空になった紙袋の中、ぽつんと一つだけ残ったブルーの個包装。
ピンクや赤はいかにもな感じがして嫌だった。いや、そもそも本命でも何でもないんだけれど。
……そっちがくれって言ったくせに。
内心独りごちて頭を振る。待つ義理はない、帰ろう。
「ねー、聞いた? 津山くんが最近大人しくなったのって、本命できたかららしいよ」
「あー……聞いた聞いた。なーんか残念、全然そういう感じじゃないよね~」
スカートを短く着こなし、メイクを施した顔で喋るクラスメート。その会話を背で聞きながら、私は教室を後にした。
玄関で靴を履き替えて、いつもの如くバス停まで歩く。
しかしそこに着く手前、信じがたい光景が目に飛び込んできた。
「本当に好きなんです。かっこいいからとか、優しいからとか、そんなみんなが言うような理由じゃなくて……」