九羊の一毛
俺の質問に、そんな答えが返ってくる。
「ヒツジちゃんって……あ、白さんの名前?」
「本当は『よう』って言うんだけど、最初はみんなヒツジって読んじゃうし、何かおっとりしてるから俺はそう呼んでる。あ、本人の前では呼ばないけど」
女子は結構そう呼んでる人いるよ、と追加情報を貰った。
一年生の時、本人は「ヒツジちゃん」と呼ばれる度に訂正していたらしいが、段々と億劫になったのか、最後の方はそのあだ名が定着していたらしい。
おっとり、か。
大丈夫だろうか。玄は基本的に女の子には愛想がいいが、それは関係を持った子に限る。
玄に寄っていくのは、明るくて会話上手な子が多い。だからこそ彼も普通に話せるんだろう。
果たしてあの子は――
「岬」
後ろから呼ばれて、ぎくりと背筋が伸びた。
先生のよく通る声で名指しされ目が覚めたのか、玄は振り返った俺を不満げに見やる。
「今、何時間目」
「え? あ、五時間目だけど……」
「あっそ」