九羊の一毛
口調からして、一年生だろうか。その子は頭を下げてから、足早に私の横を通り過ぎていった。
必然的に私の姿を視界に入れた彼が、気まずそうに目を伏せる。
そんな顔したいのはこっちなんですけど。言いたいのをぐっと堪えて、黙りこくったままバス停の前で立ち止まった。あくまでバスを待っているだけだ。彼のことは見なかったふりをして、ただ前方の景色を眺める。
「……西本さん」
「なに?」
「あの、……ごめん」
「何が?」
たぶん今、物凄く冷めた声をしている自覚はあった。
ごめんって何。何で私に謝るの。意味が分からない、何もかも。
『ねー、聞いた? 津山くんが最近大人しくなったのって、本命できたかららしいよ』
『好きな子、いるんだ。だからごめん、君とは付き合えない』
知ってるよ、そんなの。とっくのとうに知ってる。
だって津山くんの好きな人は、私、だから。
自惚れじゃない。私自身、そこまでモテる人間だと思わないし、経験もない。
でも、流石に分かってしまう。彼が変わったタイミングと私への態度が変わったタイミングが同じだったし、クリスマスに二人で出掛けようと誘われたし、普段の視線や仕草からでも分かる。
『……チョコ、欲しいなあ、なんて……』