九羊の一毛
私は津山くんを好いてはいない。別に嫌いというわけでもない。
元々彼の貞操観念に関しては、絶対に相容れないと思っていた。今でもそう思う。
自分はそんな風になりたくないし、される側にもなりたくない。
彼がそういうことをするのはどうぞご自由に、という話だけども、私は軽蔑するし、普通に嫌だ。その根底が覆らないと思っていたからこそ、友達でいられたのだ。
適度な距離感。お互い恋愛対象で見るはずもない、フレームアウトな関係。それなのに、彼が一方的に壊してしまった。
態度を改めたからといって、何だというのか。過去に人を傷つけた事実は何一つ消えないし、許されるわけでもない。
私に媚びても、私が彼を最低だと評価するのは変わらないし、逆にその程度で「好き」だのと言っているのなら殴りたくなる。
――そうやって、理性はずっと私の中で戦っていた。
「はい」
紙袋ごと彼に押し付ける。
目を瞬かせて立ち尽くす津山くんに、「いらないならいいよ」と腕を引っ込めようとした。
「い、いる! えっ、これ俺に? だよね?」
「津山くん以外に誰がいるの、いま」
「ありがとう……」