九羊の一毛
彼女は最初から最後まで安定のA判定。先生からも「大丈夫」とお墨付きをもらっていた。
対して俺はと言えば。E判定から始まり、最後の模試では何とかCまではいったものの、二次試験前の面談で「志望校、変えた方がいいんじゃないか」とかなり心配された。
正直なところ、何度も迷った。
それでも思いとどまったのは、彼女の存在があったからだ。
『まあだめだったとしても、受けとけば良かったって後悔するよりはいいんじゃない?』
最後の模試の返却後、教室で項垂れていた俺に彼女が言った言葉だ。普段俺から話しかけることが常なのに、その時は珍しく彼女から声をかけてくれて。
いつまでそうやってるの、帰ろう、と俺の腕を引っ張った彼女は、コンビニで肉まんを買ってくれた。
彼女のことが好きだというのは大前提にあったけれども、落ち込んでいた時に優しくされたというのも相まって、俺はその時死ぬほど泣いてしまった。恥だ。恥。消せるものなら過去に戻って消したい。
そうやって、久しぶりに抱えた馬鹿みたいに大きな感情を伝えられないまま。
俺も彼女も、この校舎を去る。