九羊の一毛



「気まずいなあとか、思わないの」


彼女の第一声。駅前で待ち合わせ、俺の顔を見るや否や、西本さんは眉根を寄せた。


「普通合格発表って一人で見に行くもんだよ。慰めろって言われても、無理だからね」

「俺が落ちる前提なのやめて……」

「事実じゃん」


相変わらず手厳しい。苦笑しながら彼女に歩幅を合わせる。

卒業式の一週間後。公立大学の合格発表日がやって来た。
彼女の言う通り、友達と行くのはタブーだと散々言われて分かってはいるが、それでも俺は彼女に連絡を取った。
俺があの日諦めなかったのは彼女のお陰でもあり、彼女のせいでもある。結果を彼女にも知って欲しいと傲慢ながらに思ったからだ。

そして俺は、一つ決めていることがあった。


「うわ、人だかりすごい……」


数分歩いて大学の敷地に入ると、外の掲示板に群がる受験生が目に入る。


「じゃあ津山くんは、ここで待ってて」

「え?」

「私、先に自分の結果見てくる。流石に一人で探したいから」

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