九羊の一毛
それもそうか、と大人しく頷いた俺に、彼女は背を向けた。
俺は今日、彼女に告白する。
卒業式の日に言わなかったのは、今日会うときに気まずくなってしまうから。結果は正直目に見えているというか、多分振られるだろう。
合否については五分五分だし、受かったら言うとか、落ちたら言わないとか、そんな賭け事のように扱う気持ちではなかった。どっちみち、俺にとって今日がターニングポイントになるのは間違いなくて、この気持ちも一緒にすっきりさせたかったのだ。
ぼんやり人だかりを眺めていると、ほどなくして彼女が戻ってくる。
顔を上げた彼女は俺を見て口角を上げると、ブイサインを作って駆け寄ってきた。
「受かった!」
やはり緊張はしていたらしい。いま向けられている笑顔は、今日最初に会った時と比べて遥かに澄み渡っている。
「おめでとう、良かった……」
「あはは。私のこと言ってる場合?」
「仰る通りで……」
肩を竦める俺の背中を、彼女が強めに押し出した。
「安心して。泣いて戻ってきても置いて帰ったりしないから」