AIが決めた恋
外に出ると、父は言った。

「いいか、蛍貴。君は我慢なんてしなくていいんだ。」
「我慢…?」
「蛍貴は昔からとても優しい子だ。でも、優し過ぎるところがある。『良い子』と『都合の良い子』は違うんだよ。」
「僕は、『都合の良い子』だということ?」

そう聞いてみたが、そんなこと、自分でも分かっている。

「今はそうだな。でも、それはきっと俺達のせいだ。」
「そんなことない。」
「そんなことあるんだよ。とにかく、そうやって自分を殺して、相手の要求ばかりを飲み込んでいると、いつか自分が無くなってしまうよ。」
「もしそうなってしまったら?」
「仕舞いには生きている意味すら分からなくなる。自分で考えることのできない、完全なる指示待ち人間になってしまう。」

父は寂しそうな顔をした。

「蛍貴は、この辺りの最難関の高校じゃなくて、『高瀬AI研究所附属高等学校』に行きたいんだろ?」
「えっ…?」

驚いた。まさか父にバレていたとは。

「どうしてそれを…?」
「机の上にパンフレットが置いてあったからな。」
「ただ置いてあるだけかもしれない。」
「そんなわけないだろう。何故君があの高校を志望しているのかまで、手に取るように分かる。」
「それは凄い。」

僕があの高校を選んだ理由はただ1つだ。
僕はもう一度、幸せな家庭で暮らしたい。でも、仲の良かった両親がどんどん変わっていく様子を見て、恋愛なんてものを信じられなくなった。誰かを好きになり、結婚をしたって、いつかは消えて無くなる。
でも、もし相手がとても相性の良い相手だったら、結果は違うかもしれない。僕は、その可能性に賭けてみたい。
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