AIが決めた恋
私達は教室に戻り、窓側の1番後ろの(すみ)まで行くと、立ち止まって向かい合わせになった。

「話とは何かな?」

私はスクールバッグの中を(あさ)り、1冊の小説を取り出した。
以前、佐倉くんから借りた、彼自身が書いた小説だ。

「これ…、読み終わったのでお返しします。」
「ありがとう。」
「とても素敵な物語でした。」

それは、幼少期に自己否定感を植え付けられた主人公が、音楽と出会って、本来の自分を取り戻していく物語だった。

「私はいつも読書をしているくせに、それほど語彙力が無いので、この素晴らしさを上手く表現できないかもしれないのですが…、なんというか、最初から最後まで、とても綺麗な物語でした。」
「綺麗?」
「日常に溢れているほんの些細(ささい)な表現まで、とても綺麗で…、私は感動しました。」

純粋にこの物語が好きだと感じた。
佐倉くんは、嘘の無い、少しも(にご)っていない、純粋な水のような存在だと感じた。
いや、嘘の無い人間など、この世に存在しないと思うから、多少の嘘はあるのかもしれないけれど。それでも、きっと彼のつく嘘は、優しい嘘なのだろうと思えるような、そのくらい綺麗で美しい文章だった。

「そう言ってもらえて、とても嬉しいよ。」

佐倉くんが微笑んだ。どうして彼の笑顔には、こんなにも安心感があるのだろう。

「それから、もう一つだけ言いたいことが…。」
「何?」
「あの…、私、謝りたくて…。」

この前のこと。いくら気が動転していたとはいえ、酷いことを言ってしまった。
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