AIが決めた恋
「それから、役作りの為にも、お互いがもっと近寄らなければならないと感じた。」
「近寄る…?演技をしている時の距離が遠かったですか?」
「そうじゃない。君は意外と天然なのか?」

天然。初めて言われたような気がする。私は天然なのだろうか。分からない。そんな風に思ったことは一度も無かった。

「物理的な距離じゃなくて、精神的な距離…。」

そこまで言われて、やっと真島くんが何を言おうとしているのかが分かった。

「なるほどですね。」

確かに、完璧な舞台に仕上げる為には、徹底した役作りが必要だ。
今の私達は、きっと恋人のようには見えない。でも、それでは駄目だ。
お互いが、お互いを好き合っているような、そんな姿を観客に見せなければならない。

「でも、精神的な距離は、どうやって縮めれば良いのですか?」
「それは俺も分からない。取り敢えず、物理的な距離を縮めれば、精神的な距離も縮まるんじゃないか?」
「ぶ、物理的な距離って…!」

そもそも、精神的な距離とは、そんな簡単な方法で縮まるのだろうか…。物理的な距離とは…。

「怖ければ言え。直ぐにやめるから。」
「えっ…、えっと。」

真島くんが、ゆっくりと私に近づいてくる。
一体私は何をされてしまうのだろう…。
思わず目を閉じると、左手が、真島くんの手に触れた。そして、そのまま包まれる。

「大丈夫か?」
「は、はい。」

手なら、以前にも一度繋いだことがある。しかし、2度目でも全く慣れない。

「舞台が終わるまでは、これで一緒に帰ろう。」
「へっ…!」
「嫌か?」
「い、いえ。」

嫌ではない…けれど。恥ずかしい…。
でも、きっと私に気を遣っているのだろう。真島くんの手は、まるで、割れ物を扱うかのように、とても優しかった。
どう考えても、理由も無く人に危害を加えるとは思えない。やはりあの噂がとても気になる。
暴力事件について、もっと深いところまで聞いてみたい。
けれど、どうしてもそれが聞けなかった。
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