AIが決めた恋

大きく深呼吸を続けて3回する。その瞬間、体育館全体に開演ブザーが鳴り響き、緞帳(どんちょう)(ステージの幕)が上がり、白雪姫が始まった。
舞台上には、お妃様役の演劇部の先輩が、堂々と演技をしている。

「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは、だあれ？」

このシーンは、練習でも何度か見たことがあったが、改めてその演技力に圧倒された。とても迫力がある。こんなに素晴らしい演技を間近で目にしてしまうと、自分が本当に今から舞台に立って良いのか不安になってくる。しかし、そんな中でも、舞台は次から次へと進んでいく。
そして、自分の出番が目前に迫ってきた。
私は目を閉じて、強く拳を握り締めた。
今まで、何度も何度も練習をしてきたのだ。きっと上手くいくはずだ。
自分にそう言い聞かせて、私は、舞台へと登場した。
客席にいる人々が、一気に目に飛び込んでくる。ざっと100人近くはいるだろう。
真島くんは以前、自分の噂により、観客は減るのではないかと言っていたが、全然そんなことは無かった。

「森へ来るのは初めてだわ。」
「いいかい白雪姫、森の奥へ逃げて、二度と戻ってきてはいけないよ。」

猟師(りょうし)役の先輩に言われ、私は泣く演技をする。
恥ずかしいけれど、少し楽しいような気もする。
そうだ。思えば私は、昔は、目立つことが嫌いでは無かった。
今はもうきっと、あの時とは違うけれど。でも、今だけは少しだけ、昔の自分と今の自分を重ね合わせられるような、そんな気がした。