AIが決めた恋
僕は彼女の後ろ姿を見つめる。
『好きだ。』
たったその一言が言えたら、どんなに楽だろう。でも、言えない。僕にも彼女にもパートナーがいる。しかも、校内1位と学年2位だ。
『藍のパートナーを蹴落とし、君のパートナーを裏切る覚悟だ。』
以前、裕さんが言っていた言葉を思い出す。
やはり、僕にはその覚悟がまだ無い。
湖川さんと、今とは違う形で出会っていたら…なんて、そんな甘い考えをしてしまうんだ。

「蛍貴、大丈夫?」

影石さんが心配そうな目で僕を見つめる。

「どうして?」
「だって──」

その瞬間、身体に温かいものを感じた。
気がつくと、僕は、影石さんに抱きしめられていた。

「えっ…、ちょっと、影石さん?」
「『影石』じゃない。『愛』だよ。愛って言って…?」
「あ、愛…。」
「蛍貴、私、蛍貴の為だったら何でもするから、色々なこと、私に相談してね。」
「えっと…。」
「遠慮しなくていいから。」
「わ、分かったよ。分かったから、離して欲しいな。人目のつくところで、恥ずかしいよ。」

僕がそう言うと、影石さんは僕から離れた。

「ごめんね、困らせちゃった。」
「いや、いいよ。」
「蛍貴と一緒にいたら、これからとても楽しい日々が過ごせそう。」

影石さんが微笑んだ。
先のことはよく分からないけれど、影石さんは桃野さんと比べたら僕に興味がありそうで、僕も彼女の存在が、もう既に、気になっている。
< 344 / 508 >

この作品をシェア

pagetop