AIが決めた恋
「これ…。」

俺は決意を固めて、映画のパンフレットを取り出した。

「これ…は!!」
「その…、来週の日曜…一緒に…行かないか…?」
「えっ…?」

彼女の方を見ることができない。どうして、これだけのことでこんなにも感情が揺さぶられているのだろう。

「べ、別に、一緒にと言っても、桃野や水原もいるし。それに、君は小説をいつも読んでるから、この原作者くらい知ってるだろ。俺にも、君の趣味のことを知る権利がある。別に深い意味は無い。」

おかしい。水原はこんな風ではなくて、もっと上手くやっていたはずなのに。

「駄目なら駄目だと言え。」
「えっと…。」

駄目だ。こんな攻撃的な言い方で、OKをしてもらおうと思っている方がどうかしている。
いつも、大抵のことは人並み以上にできるのに…。今回は、全然上手くできなかった。
ごめん、水原。色々教えてくれたのに──

「良いですよ。」

そうだよな。言いわけないよな…って──

「良いのか…!?」
「はい。私、小学生の頃にこの作家さんの小説を初めて読んで、その時から、ファンなのですよ。繊細な文章の表現や、美しい情景描写が、凄く…好きなのです。」

彼女が柔らかく微笑む。
その笑顔を見て、直ぐに次の言葉が出なかった。彼女のこんな表情は、初めて見た。好きな作家も、初めて知った。
その表情が、言葉が、事実が、俺にプラスの感情を与える。
もう、二度と誰にも興味を持たないと思っていたのに。
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