AIが決めた恋
「あ、ごめんなさい。…つい熱くなってしまいました。」

俺は首を横に振る。

「観たいと思っていた映画だったので、誘っていただけて、嬉しいです。」

『受け取ってくれてありがとう。楽しみにしてる。』

水原のお手本では、最後にそう言っていた。せめて、それだけでも、きちんと言わなければ…。

「…りがと。」
「えっ?」
「う、受け取ってくれて…あ、あ…」
「あ?」
「あ、アプリでチケットを取ると、水原が言っていた。」

情けない…。どうして、こんなことさえも言えないのだ。

「そうなのですね。奏汰くんにも、お礼を言っておかなくてはですね。」
「ああ。じゃあ、それだけだから。」

俺は回れ右をして、後ろを向く。そして、歩き出す。
別れたら、絶対に振り返らない。出会った時からそうだ。
去る時は、何の未練も持たず、颯爽と去る。また明日会うのに、大袈裟かもしれないが、自分で決めたそのルールを、今日も貫く。
遠くの方を見ると10mくらい先の曲がり角の先から、チラッとこちらに顔を出す人影が見えた。
高身長で、スラッとしている。こちらに手を振っている姿で直ぐに分かった。
水原だ。
何だ。今の、全て見ていたのか…?
俺は少し歩行のスピードを上げ、水原の元へと向かった。
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