AIが決めた恋
第1章 AIが決めたパートナー

君が気になる

僕には気になる人がいる。
教室の1番窓側の後ろから2番目の席。彼女はいつも、一人静かに読書をしている。本には淡い黄色のブックカバーがついている為、何を読んでいるのかは分からない。でも、彼女が読んでいる本を僕も読んでみたいと素直に思う。
これは恋なのだろうか。何度か真剣にそう考えたが、結論はいつだって同じだ。
おそらく、これは恋ではない。
この学校で決められた相手以外の人に恋をするなど、無意味なことだ。
僕は、恋愛感情なんてものを信じていない。これから先、恋をしたいとも思わない。ただ、相性の良い相手と将来的に一緒になれたのなら、それは幸せな事だと思う。だから僕はここに来た。

蛍貴(けいき)!おっはぁ〜!」

同じクラスの本田くんが僕の肩を叩きながら挨拶をした。

「おはよう。」

彼はクラスの中でも特に目立っている男子。反対に僕はあまり目立たない。というか、目立ちたくないから極力静かにするようにしている。
何故、このような正反対な僕達に接点があるのか。それは、僕が本田くんと昔から家が隣同士だからだろう。
もし、家が隣同士でなければ、話すこともきっとほとんどなかったはずだ。

「そうだ!俺、今日こんなもの持ってきちゃったんだ〜!」

本田くんが得意気に鞄の中を漁り、“それ”を取り出した。

「何それ。」
「何って、見りゃ分かるだろ!ゴキブリの玩具(おもちゃ)だよ!」

この人は何を言っているのだろう。

「これをな〜、女子の机に投げて、驚かせるんだよ。くっくっく。」
「絶対にやめておいた方がいいと思うけど──」

僕が言い終わる前に、本田くんは近くの席の女子の机の上に、ゴキブリの玩具を投げた。女子達は、とても驚き、直ぐにその場を離れた。

「キャーーー!!!!!何これぇ!!!!!」
「ゴキブリだよ〜。」
「キャー!やだぁ!」

本田くんはとても楽しそうにゴキブリの玩具を投げる。
あまり好ましい光景ではない。僕は静かな方が好きだ。
朝は彼女をこっそり眺めるのが日課だったのに。今日は他のことに気を取られなければならないみたいだ。

「本田くんやめてよぉ。も〜う!」
「ゴキブリとか、玩具でもマジキモぉ〜い!」

そんなことを言いながら、女子達はなんだかんだで楽しそうにしている。
そういうものだ。
思春期の僕達にとって、人からどう見られているかはとても重要なことである。できれば他人からは格好良く、又は可愛く見られたいし、誰だって嫌われたくはない。多かれ少なかれ、皆そのような感情を持っている。
だからこそ、このようなチャンスは絶好の機会だ。
『キャー』と言うことによって、虫が苦手なか弱い女子を演じることができるのだから。

「ほ〜ら、ほ〜ら、ゴキブリだぞ〜!」

ぼんやりと人の感情について考えているうちに、本田くんはどんどん色々な人にゴキブリの玩具を投げて遊んでいる。そして、知らないうちに何人かの男子も本田くんに混ざっていた。
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