AIが決めた恋
まあ、そんなことで、俺は影石愛に興味の欠片すら抱いていなかった。
そんな俺に、どうして“春”が来たのか。
それは、ある初夏の日の放課後に起きた出来事がきっかけだ。
その日俺は、夕方午後6時を過ぎるまで、格技場で剣道の自主練習を行っていた。
まだ空は明るかったけれど、下校時刻となった為、俺は荷物をまとめ、格技場を後にした。
そのまま家に帰ろうと思ったが、鞄の中に筆箱が入っていないことに気がつき、教室へと戻った。
もう下校時刻だから、鍵が閉められているかとも思ったが、教室はまだ鍵が開いていた。
ラッキーだと思い、教室に入ると、俺は衝撃的な場面を目にしてしまった。

「っ…う…っっ…。」

教室の隅で、影石愛が泣いていた。
窓から零れる夕日が、彼女の涙をより際立たせている。
俺は慌てて教室を出ようとしたが、その姿を影石愛に気づかれてしまった。

「…九条…広大くん…?」

俺はその場で固まってしまった。
それまでの人生で、女子から一方的に話しかけられたり、告白されたりしたことは何度もあったが、俺はその人達とまともに会話をしていなかった。
女子との会話に全く慣れていない。
だから、目の前で女の子が涙を流している場面で、どんな言葉をかけるのが正解なのか、または何も声をかけない方が良いのか、分からなかったのだ。
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