AIが決めた恋

「恥ずかしい…。」

湖川さんが呟いた。

「え？」
「また、迷子になっているところを佐倉くんに見られてしまいました…。」

そうだ。僕は湖川さんが迷子になっている姿を見たことがある。それも、割と最近。

「足、痛くない？」

僕は何と返したら良いか分からず、話題を変えた。

「大丈夫です。」

そうは言っているが、痛そうだ。

「絆創膏は持ってる？」
「持っていたら、貼ってますよ。」

確かにそうだ。どうして僕は気の利いた会話ができないのだろう。

「じゃあ、僕のあげるよ。消毒も持ってるから、使って？」
「え、いいのですか…？」
「うん。」

山登りをしている最中に怪我をしてしまうことを想定して、消毒と絆創膏を持っていて良かった。
僕は、湖川さんの目の前でしゃがみ、消毒をしようとしたが、その瞬間、湖川さんは僕から物凄い勢いで離れた。

「じ、自分でやりますから…！しょ、消毒、貸してください。」

湖川さんはとても怯えているのうに見える。その姿を見て、自分のしようとしていたことの重大さに気がつき、慌てて湖川さんに絆創膏と消毒を渡した。

「そ、そうだよね。ごめん。」

よく考えたらわかる事だ。パートナーでも何でもないただのクラスメイトの女の子の膝に触れるなんて、下手をしたら、セクハラだと言われてしまうかもしれない。

「本当にごめん。今のは、その、つい…。何というか変な意味ではないから。」

『セクハラ』だと言われるだけならまだ良い。しかし、真島くんや従兄のお兄さんに言いつけられたらどうだろう。僕はこの高校で生きていくことさえ、難しくなってしまうかもしれな──

「分かってますよ。」

湖川さんが言った。先程の慌てた様子は無く、普段の無表情に戻っていた。