教師になりたい悪役令嬢はゲーム関係者の妨害にあう
 泣き言を零しながら私に抱き着くのはこのゲームの主人公だ。それも軽く抱き着くだけではなく、首に手を回し背後から飛び乗る勢いは、鬱陶しいだけでなく重い。

「ちょっと、重い――ライラ!」

「どうしよう、どうしようエリちゃん! 私、実家からも早く卒業して帰って来いって言われてたのに留年しちゃって……お母さんにもおばあちゃんにも怒られる!」

 主人公ライラの実家は有名な魔女の一族だ。その血を受け継ぐライラは将来を大魔法使いとして期待されている。
 それがまさかの留年て……

「それは貴女の責任でしょう」

「酷い!」

「酷くないわよ。だいたい、酷いのは貴女だわ! 何を勝手に私のことを親友と触れ回っているの! おかげで私は貴女の実家から娘に悪い友達が出来たって、娘が卒業できなかったのは私のせいだって、お叱りを受けたのよ。貴女と関わって私がどうなるか、知らないわけがないでしょう!? どうしてくれるのよ!」

 ぱっと手を放して前に回ると、ライラは不思議そうに眼を丸くする。

「どうしてって何が? だって私とエリちゃんは親友だよね? 同じ転生者仲間なんだし、クラスメイトなんだよ」

「しっ! 転生とか、あまり人前で言うものではないわ。教えたでしょう? どこに他の転生者が潜んでいるかわからないのよ!」

「あ、そ、そうだった! ごめんね、エリちゃん」

 本人も自覚しているように主人公ライラも転生者である。
 ゲームが始まってから早々に転生者同士として結託している私たちだが、必要以上になれ合うことを私は良しとしなかった。いくら悪役に徹するつもりはないとはいえ、主人公と関わって良いことがあるとは思えない。実際、距離を取っていたにも関わらずこの有様なのだから。

「それはもういいけど……。こっちはどうでも良くないわ! どうして貴女が留年したことを、私が貴女の実家から責められないといけないの!? 意味が分からない。完全にライラの自己責任でしょうに!」

「酷いよエリちゃ~ん!」

「誰がエリちゃんですか。私はもうあなたの同級生ではないのよ。教師なのだからエリナ先生と呼びなさい」

「ううっ……親友に置いていかれたぁ……確かに楽観視してた私も悪いよ? 家族に言われるままこの学園に入学しちゃったのは私だよ! 地方の小さな魔法学校だったらギリギリ卒業出来たかもしれないのに、ゲームの舞台って楽しそう! って入学を決めたのは私です。主人公だから名門でも卒業は簡単だよね! って構えてたのも私です……」 

 卒業資格が認められない場合、退学も認められてはいるが、多大な違約金が求められる。彼女の実家であれば払えるだろうが、名門一族の娘が自主退学で違約金を払ったと笑い者にされたくはないらしい。
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