男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「ああ、言葉を学ぶ意味を今日ここでようやく分かりました。不要な軋轢を生まないためだったのですね。学んでいたことを良かったと思います」
「あなたの名前を教えてほしい」
緑の目の男が不意に口にした言葉は、その場の誰もがわかる森と平野の言葉。
ロゼリアの足が驚きにぴたりと止まる。
「言葉が、わかるのですか!」
「衛兵たちがあまりにも無礼な扱いだったので、申し訳ないと思いつつ、言葉を理解できないふりをさせてもらった」
「ふりですか、それは思いもしませんでした」
くすりと緑の目の若者は笑う。
「知らないふりが一番、物事を理解するのに有効なのですよ」
騙された怒りを通り越して、パジャンの草原の民はなんて誇り高くて高慢な者たちなのだろうと思う。
城門で衛兵との一件は、ロゼリアが介入しなければ一触即発なところまでいっていてもおかしくない状況だったのだ。
「女性に名前を教えて欲しいというのは、失礼に当たりますよ」
「失礼ですか?」
ロゼリアはうなずいた。
「あなたのことを一目ボレいたしました。どうかあなたの一部だけでも、せめてあなたそのものでもあるそのお名前だけでも、わたしにくださらないでしょうか、的な感じに聞こえます」
新緑色の目を丸くしてまじまじとロゼリアを若い男はみた。
ぷはっと吹き出した。
大人びた雰囲気は吹っ飛び、年相応の若者に見えた。
「惚れたって、それは面白すぎる。そんな風習があるのだな。なら名前がわからないなら、あなたをなんて呼べばいいのだ?」
パジャン語に戻っていた。
ロゼリアは首を傾けた。
「娘さん、お嬢さん、お姉さん、、、、」
ロゼリアは村娘がなんて呼ばれているかをあげていく。
「では、お嬢さん、、、」
緑の目の男は目元を緩ませ、何かを言いかけた。
だがそれはどかどかと踏み込んだ騎士たちに阻まれてしまう。
王騎士のセプターがロゼリアを睨んだ。
あきらかに、あなたは今、王子ではなく姫なのですよ、と脅すような諭すような目をしている。
だが懸命にも王騎士セプターはロゼリアを呼ばない。
ロゼリアと緑のパジャンの若者の間に盾を差しはさむように自分の体を割り込ませる。
パジャンの男たちの突然の訪問の真意がわからないから、国内のことなど欠片も教えるつもりがないのがその態度に現れていた。
そして、この時期の突然の訪問は、姫を嫁に欲しいとの結婚の申し込みだろうと容易に想像ができることである。
なら、なおさら、お前たちが欲しがるアデールの姫が、お前たちを案内したこの娘であると教えてやろうとも思わない、という頑なな態度であった。
「パジャンの使者さま。大変ご無礼をいたしました。パジャンの話を伺いたいと、王と王妃が待っておりますのでどうぞこちらへ、、、」
だが、態度はあくまで慇懃である。
ロゼリアの手はフラウに引かれた。
「お疲れさまでございます。何事もなく無事に収められてさすがございます。外交のことは彼らにお任せいたしましょう。さあ、部屋にもどりますよ、、、」
そうして、ロゼリアはその午後は城からでる機会を逃してしまう。
かといって、当初の予定の外国からの祝賀に訪れた使者たちと、張り付けた笑顔で応対することもなかった。
ロゼリアは退屈さにため息をつき頬杖を突き、窓から聞こえてくる音楽やら楽しそうなざわめきに耳を傾けていた。
なぜなら、激怒したセーラ王妃により自室に閉じ込められたからであった。
ロゼリアは窓枠に頭を置く。
ひばりが甲高く鳴いている。
目を閉じれば緑の目にまだ見つめられているような気がした。
草原のあの若者はうまく謁見を済ませただろうか、彼らの王はどのような王か。
息子はいたかと思いを馳せた。
年齢の近い王子が何人かいたように思うが、内情の詳細はアデールには伝わっていない。
彼らから内情を聞き出せるかもしれないとあって、きっと歓待しているだろうと思う。
そして、彼らの王か王子は自分を妻にまで望んでいるのだろうか。
そもそもエールの使者も、ジルコンの結婚の申し込みを正式に伝えにきたのだろうか。
16歳でいきなり男から女にもどり、姫としてジルコンか、もしくは他の誰かと結婚する。
からだと心がちぐはぐである。
言葉つかいも気を緩めれば男言葉になっている。
こんな状態で、姫として結婚なんて無理がありまくりはないかと、ロゼリアは思うのだった。
「あなたの名前を教えてほしい」
緑の目の男が不意に口にした言葉は、その場の誰もがわかる森と平野の言葉。
ロゼリアの足が驚きにぴたりと止まる。
「言葉が、わかるのですか!」
「衛兵たちがあまりにも無礼な扱いだったので、申し訳ないと思いつつ、言葉を理解できないふりをさせてもらった」
「ふりですか、それは思いもしませんでした」
くすりと緑の目の若者は笑う。
「知らないふりが一番、物事を理解するのに有効なのですよ」
騙された怒りを通り越して、パジャンの草原の民はなんて誇り高くて高慢な者たちなのだろうと思う。
城門で衛兵との一件は、ロゼリアが介入しなければ一触即発なところまでいっていてもおかしくない状況だったのだ。
「女性に名前を教えて欲しいというのは、失礼に当たりますよ」
「失礼ですか?」
ロゼリアはうなずいた。
「あなたのことを一目ボレいたしました。どうかあなたの一部だけでも、せめてあなたそのものでもあるそのお名前だけでも、わたしにくださらないでしょうか、的な感じに聞こえます」
新緑色の目を丸くしてまじまじとロゼリアを若い男はみた。
ぷはっと吹き出した。
大人びた雰囲気は吹っ飛び、年相応の若者に見えた。
「惚れたって、それは面白すぎる。そんな風習があるのだな。なら名前がわからないなら、あなたをなんて呼べばいいのだ?」
パジャン語に戻っていた。
ロゼリアは首を傾けた。
「娘さん、お嬢さん、お姉さん、、、、」
ロゼリアは村娘がなんて呼ばれているかをあげていく。
「では、お嬢さん、、、」
緑の目の男は目元を緩ませ、何かを言いかけた。
だがそれはどかどかと踏み込んだ騎士たちに阻まれてしまう。
王騎士のセプターがロゼリアを睨んだ。
あきらかに、あなたは今、王子ではなく姫なのですよ、と脅すような諭すような目をしている。
だが懸命にも王騎士セプターはロゼリアを呼ばない。
ロゼリアと緑のパジャンの若者の間に盾を差しはさむように自分の体を割り込ませる。
パジャンの男たちの突然の訪問の真意がわからないから、国内のことなど欠片も教えるつもりがないのがその態度に現れていた。
そして、この時期の突然の訪問は、姫を嫁に欲しいとの結婚の申し込みだろうと容易に想像ができることである。
なら、なおさら、お前たちが欲しがるアデールの姫が、お前たちを案内したこの娘であると教えてやろうとも思わない、という頑なな態度であった。
「パジャンの使者さま。大変ご無礼をいたしました。パジャンの話を伺いたいと、王と王妃が待っておりますのでどうぞこちらへ、、、」
だが、態度はあくまで慇懃である。
ロゼリアの手はフラウに引かれた。
「お疲れさまでございます。何事もなく無事に収められてさすがございます。外交のことは彼らにお任せいたしましょう。さあ、部屋にもどりますよ、、、」
そうして、ロゼリアはその午後は城からでる機会を逃してしまう。
かといって、当初の予定の外国からの祝賀に訪れた使者たちと、張り付けた笑顔で応対することもなかった。
ロゼリアは退屈さにため息をつき頬杖を突き、窓から聞こえてくる音楽やら楽しそうなざわめきに耳を傾けていた。
なぜなら、激怒したセーラ王妃により自室に閉じ込められたからであった。
ロゼリアは窓枠に頭を置く。
ひばりが甲高く鳴いている。
目を閉じれば緑の目にまだ見つめられているような気がした。
草原のあの若者はうまく謁見を済ませただろうか、彼らの王はどのような王か。
息子はいたかと思いを馳せた。
年齢の近い王子が何人かいたように思うが、内情の詳細はアデールには伝わっていない。
彼らから内情を聞き出せるかもしれないとあって、きっと歓待しているだろうと思う。
そして、彼らの王か王子は自分を妻にまで望んでいるのだろうか。
そもそもエールの使者も、ジルコンの結婚の申し込みを正式に伝えにきたのだろうか。
16歳でいきなり男から女にもどり、姫としてジルコンか、もしくは他の誰かと結婚する。
からだと心がちぐはぐである。
言葉つかいも気を緩めれば男言葉になっている。
こんな状態で、姫として結婚なんて無理がありまくりはないかと、ロゼリアは思うのだった。