男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
すぐに長老たちの立ち合いの元、家族族会議が行われた。
セーラ王妃、アンジュ、彼の許嫁のサララが集り、その手紙を何度も読み返した。
軽いものから深刻なものまでいろんな悪い状況が想定された。
一番楽天的なものとしては、
故郷を離れて、ロゼリアはひどいホームシックになっているのではないか?
それだと寂しさを紛らわせるために、アンジュは呼ばれたのである。
そしてこの場に集まった彼らが一番考えたくなくて、かつ、一番ありえそうな深刻な状況は、ロゼリアが最悪な状況下で女とばれたのではないかということである。
そのことによりロゼリアは肉体的にも精神的にもひどく傷ついたのかもしれない。一人で立ち直れないほどに。
フォルス王が、本物のアンジュ王子を呼び寄せて、ロゼリアの気持ちを和らげようとしているのではないか。そして、帰国させようとしているのではないか。
アンジュは自分が行ってもなんの解決にもならないような気がした。
ただ、妹が異国で奮闘しているのに、ぬくぬくとアデール国で守られているのが日に日に情けなくなってきたところでもある。
毎日、あの傲慢な王子の元、ロゼリアがどうしているか考えない日はない。
「ロゼリアが大変な状態になっていたら、わたしが連れて帰る!本来ならわたしが行くべきであったのだから!」
兄として男として、アンジュは格好よくそう言い切りたかった。
だがその言葉は口から発せられる前に、ふにゃふにゃと芯が抜けてしまう。
そもそも今も、ロゼリア姫として女装姿でいる。
その姿も板につきすぎてしまっている。
言いよどんだアンジュの代わりに、サララはロゼリア姿のアンジュの手をしっかと取った。
「アンジュさま、ロズさまの一大事かもしれません!わたしたちが必要とされているのです。さっそく急ぎまいりましょう!」
「サララ、でも……」
それでもぐずぐずとアンジュは煮えきらない。
アデール国の姫としてのぬくぬく生活は心地よい。アンジュには外の世界は恐ろしく思えた。
母であるセーラはサララの言葉に大きくうなずきにっこり笑う。
「よく言いました!サララ!ロゼリアの様子を見にアンジュ、サララを連れていきなさい。根本的に助けることがたとえできなくても、なんらかの状況の変化は生むでしょう!」
母の意向は家族会議ではほとんど通る。
アンジュはその言葉を聞き、エール行きが逃れられない定めと知る。
「セプターと護衛にディーンを連れていけ。彼は頼りになる」
ベルゼ王が言い、ロゼリア姫の女装をするアンジュ、アンジュの婚約者サララ、王騎士セプター、護衛役としてディーンが雇われ、翌朝エール国へ出立する。
王族の他国への訪問にしては、質素で軽装、最小人数の、慎ましやかな一行だった。
そうして、数日かけてエールの王城にたどり着いたのである。
彼らは、門兵に遮られる。
門番が彼らの素性を確認し、直接王からの親書に目を通した。
「アデールのロゼリア姫ですか!」
門番は、外套のフードを後ろに落として見せた、アデールの王子とそっくりの、双子の姫の麗しい顔を見て納得する。
同じ顔立ちでも男と女でずいぶん雰囲気が違うものだと門番は思う。
アンジュとサララ、王騎士は通すが、武装した門衛はディーンを槍で押し止めた。
「あなたはアデールの姫の護衛なのか?」
「そうだ」
「王城内は王族以外、あらゆる武器の持ち込みはできない。全て預からせて頂く」
ディーンは身体のいたるところを探られて、剣やナイフを全て取り上げられたのであった。
フォルス王との謁見は多忙な王の合間をぬって、手早く行われた。
フォルスは妹のロゼリアと交わしたのと同様の固い抱擁を交わす。
「ロゼリア姫、大きく美しくなったな!その姿とても似合っている!よく来てくれた!いそがして申し訳ないが、アンジュ王子にあってやれ。彼が部屋に籠ってもう七日がたつ。ジルコンはわたしに何も言ってこないが、見かねてな。それが、ちょっと色々あったことはユリアンやスアレスたちから報告を受けているのだが……ロゼリア姫とサララ殿には快適に滞在できるように王城に部屋も用意しよう。護衛の方々には王都の王城のすぐ近くの宿を紹介する。厳戒態勢をとっているために、ごく限られた関係者以外は王城には滞在できないことになっている」
顔に傷のある王は端的にロゼリアの状況を説明する。
聞くにつれて、アンジュの顔は紙のように白くなっていく。
「そんなことが起こっていたなんて。なんてこと……」
サララが涙を浮かべ鼻をすすった。
ようやくアンジュたちはロゼリアのエールでの状況を知ることになる。
ジルコンの取り巻きたちに嫉妬され、仲間になかなか入れてもらえない末に、集団での暴行事件が起こったことを知ったのだった。
セーラ王妃、アンジュ、彼の許嫁のサララが集り、その手紙を何度も読み返した。
軽いものから深刻なものまでいろんな悪い状況が想定された。
一番楽天的なものとしては、
故郷を離れて、ロゼリアはひどいホームシックになっているのではないか?
それだと寂しさを紛らわせるために、アンジュは呼ばれたのである。
そしてこの場に集まった彼らが一番考えたくなくて、かつ、一番ありえそうな深刻な状況は、ロゼリアが最悪な状況下で女とばれたのではないかということである。
そのことによりロゼリアは肉体的にも精神的にもひどく傷ついたのかもしれない。一人で立ち直れないほどに。
フォルス王が、本物のアンジュ王子を呼び寄せて、ロゼリアの気持ちを和らげようとしているのではないか。そして、帰国させようとしているのではないか。
アンジュは自分が行ってもなんの解決にもならないような気がした。
ただ、妹が異国で奮闘しているのに、ぬくぬくとアデール国で守られているのが日に日に情けなくなってきたところでもある。
毎日、あの傲慢な王子の元、ロゼリアがどうしているか考えない日はない。
「ロゼリアが大変な状態になっていたら、わたしが連れて帰る!本来ならわたしが行くべきであったのだから!」
兄として男として、アンジュは格好よくそう言い切りたかった。
だがその言葉は口から発せられる前に、ふにゃふにゃと芯が抜けてしまう。
そもそも今も、ロゼリア姫として女装姿でいる。
その姿も板につきすぎてしまっている。
言いよどんだアンジュの代わりに、サララはロゼリア姿のアンジュの手をしっかと取った。
「アンジュさま、ロズさまの一大事かもしれません!わたしたちが必要とされているのです。さっそく急ぎまいりましょう!」
「サララ、でも……」
それでもぐずぐずとアンジュは煮えきらない。
アデール国の姫としてのぬくぬく生活は心地よい。アンジュには外の世界は恐ろしく思えた。
母であるセーラはサララの言葉に大きくうなずきにっこり笑う。
「よく言いました!サララ!ロゼリアの様子を見にアンジュ、サララを連れていきなさい。根本的に助けることがたとえできなくても、なんらかの状況の変化は生むでしょう!」
母の意向は家族会議ではほとんど通る。
アンジュはその言葉を聞き、エール行きが逃れられない定めと知る。
「セプターと護衛にディーンを連れていけ。彼は頼りになる」
ベルゼ王が言い、ロゼリア姫の女装をするアンジュ、アンジュの婚約者サララ、王騎士セプター、護衛役としてディーンが雇われ、翌朝エール国へ出立する。
王族の他国への訪問にしては、質素で軽装、最小人数の、慎ましやかな一行だった。
そうして、数日かけてエールの王城にたどり着いたのである。
彼らは、門兵に遮られる。
門番が彼らの素性を確認し、直接王からの親書に目を通した。
「アデールのロゼリア姫ですか!」
門番は、外套のフードを後ろに落として見せた、アデールの王子とそっくりの、双子の姫の麗しい顔を見て納得する。
同じ顔立ちでも男と女でずいぶん雰囲気が違うものだと門番は思う。
アンジュとサララ、王騎士は通すが、武装した門衛はディーンを槍で押し止めた。
「あなたはアデールの姫の護衛なのか?」
「そうだ」
「王城内は王族以外、あらゆる武器の持ち込みはできない。全て預からせて頂く」
ディーンは身体のいたるところを探られて、剣やナイフを全て取り上げられたのであった。
フォルス王との謁見は多忙な王の合間をぬって、手早く行われた。
フォルスは妹のロゼリアと交わしたのと同様の固い抱擁を交わす。
「ロゼリア姫、大きく美しくなったな!その姿とても似合っている!よく来てくれた!いそがして申し訳ないが、アンジュ王子にあってやれ。彼が部屋に籠ってもう七日がたつ。ジルコンはわたしに何も言ってこないが、見かねてな。それが、ちょっと色々あったことはユリアンやスアレスたちから報告を受けているのだが……ロゼリア姫とサララ殿には快適に滞在できるように王城に部屋も用意しよう。護衛の方々には王都の王城のすぐ近くの宿を紹介する。厳戒態勢をとっているために、ごく限られた関係者以外は王城には滞在できないことになっている」
顔に傷のある王は端的にロゼリアの状況を説明する。
聞くにつれて、アンジュの顔は紙のように白くなっていく。
「そんなことが起こっていたなんて。なんてこと……」
サララが涙を浮かべ鼻をすすった。
ようやくアンジュたちはロゼリアのエールでの状況を知ることになる。
ジルコンの取り巻きたちに嫉妬され、仲間になかなか入れてもらえない末に、集団での暴行事件が起こったことを知ったのだった。