男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「とどめを刺してやれ。苦痛を長引かせるな」
 いつの間にかバスクはシーラの横にたっていた。
「俺を拒みつづけ、お前が愛していたのはこの男だったのか」

 シーラはジュリウスの胸に短剣を突き立てた。
 色味を失っていく秀麗な王子の唇に、シーラは口づけをする。
 せめて最後の息だけでも自分の中に取り込みたかった。
 はじめてシーラは自分のために滂沱の涙を流す。
 どんなに苛酷な状況でも、自分を憐れんだことは五年間一度もなかった。
 復讐のために、心を凍結し全てを捧げたのだ。
 復讐をやり遂げることは、自分を愛し続けた青の王子を殺し、彼への愛を永遠に失うことを意味していたのだった。

 炎は手際よく鎮火されていた。
 空が白白と空けてゆく。
 城下にも騒ぎが広がっている。
 夜が明ければ、暗愚な王が倒され、若き賢王が立つのを、巨大に膨れたこの国の全国民は知るだろう。
 彼を王に任ずるのは、正統な王家の血族の姫、血のようなアデールの赤を身にまとうシーラ。


 そして舞台は幕を閉じたのだった。
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