男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「ジルコン王子とご一緒なのは、最近婚約されたというアデールの姫と双子の王子ではないか!?姫のなんて見事な金髪なんだ!」
その声は会場中に通った。王子に注目をしていた視線が、その前後のアンジュとロゼリアに向かう。
「うるわしのアデールの双子!アンジュとロゼリアさまね!姫と王子と聞いていたけれど二人とも姫さまのようだわ!お一人が男装していているとしたら、それはシエラみたいだと思わない!?」
どの娘が叫んだのか。
アデールの王子がぎょっとして立ち止まった。
誰が発言したかぐるりと会場をみまわして、さらに視線を集めることになった。
会場がざわつき、場が乱れた。
場を制御できないかもしれない予感にジルコンは舌打ちした。
大勢がひとところに殺到すればパニックを誘発し危険な状況に陥ることも想定できた。
「場が変わる!アン、姫、ロサンのところまで走るぞ!」
ロサンのところまでは目と鼻の先である。
ジルコンはロゼリアとアンの腕をつかみ、走り出した。
ロサンに行きつく前に観客たちは立ち上がり、我先にと三人の方へ動き出していた。
「本物のシエラだ!」
「アデールの姫は王子の婚約者よ!」
「ジルコンさま!」
「握手してください!」
「劇はいかがでしたか!?」
熱狂した観客の混乱。
ロサンはジルコンを抱え、伸ばされた無数の腕から庇う。
ジルコンは二人を掴んでいたはずだった。
「エールの王子よ!アデールの双子はわれわれに任せて欲しい!」
そう横から割り込んだ者がいる。
真っ赤に燃えるような髪が目に飛び込んできた。
続いて傷だらけの二の腕が突き出された。
精悍な体がジルコンの腕の中からアデールの王子をさらう。修羅場をくぐりぬけてきたであろうその眼は、異様に底光る。まっすぐにジルコンを睨みつけていた。
この場が見かけ通りの平和な世ではないと知っている、戦場を知る男の目であった。そして、彼の戦の相手は、制御不能に陥っている観客だけでなくジルコンもそうだとみなしている目である。
「アデールの護衛殿!アンと姫さまを頼みました!」
ロサンが叫んだ。
暴動直前の観客の興味を一個所に集中するよりも分散した方が安全と、ロサンは判断する。
双子の姿は続いてジルコンと人を断ち切るように割り込んだジムの巨躯に、ジルコンの視野は完全に遮られた。
ジルコンは悪態をつく。
こんな混乱した終わり方など予想もしていなかった。
ロゼリア姫に、衝動的に自分の考えを伝えてしまった。
ロゼリア姫がたとえ涙ながらに縋りついたとしても自分の決定は覆ることはないが、アデールの王子の気持ちは知りたかったのである。
その声は会場中に通った。王子に注目をしていた視線が、その前後のアンジュとロゼリアに向かう。
「うるわしのアデールの双子!アンジュとロゼリアさまね!姫と王子と聞いていたけれど二人とも姫さまのようだわ!お一人が男装していているとしたら、それはシエラみたいだと思わない!?」
どの娘が叫んだのか。
アデールの王子がぎょっとして立ち止まった。
誰が発言したかぐるりと会場をみまわして、さらに視線を集めることになった。
会場がざわつき、場が乱れた。
場を制御できないかもしれない予感にジルコンは舌打ちした。
大勢がひとところに殺到すればパニックを誘発し危険な状況に陥ることも想定できた。
「場が変わる!アン、姫、ロサンのところまで走るぞ!」
ロサンのところまでは目と鼻の先である。
ジルコンはロゼリアとアンの腕をつかみ、走り出した。
ロサンに行きつく前に観客たちは立ち上がり、我先にと三人の方へ動き出していた。
「本物のシエラだ!」
「アデールの姫は王子の婚約者よ!」
「ジルコンさま!」
「握手してください!」
「劇はいかがでしたか!?」
熱狂した観客の混乱。
ロサンはジルコンを抱え、伸ばされた無数の腕から庇う。
ジルコンは二人を掴んでいたはずだった。
「エールの王子よ!アデールの双子はわれわれに任せて欲しい!」
そう横から割り込んだ者がいる。
真っ赤に燃えるような髪が目に飛び込んできた。
続いて傷だらけの二の腕が突き出された。
精悍な体がジルコンの腕の中からアデールの王子をさらう。修羅場をくぐりぬけてきたであろうその眼は、異様に底光る。まっすぐにジルコンを睨みつけていた。
この場が見かけ通りの平和な世ではないと知っている、戦場を知る男の目であった。そして、彼の戦の相手は、制御不能に陥っている観客だけでなくジルコンもそうだとみなしている目である。
「アデールの護衛殿!アンと姫さまを頼みました!」
ロサンが叫んだ。
暴動直前の観客の興味を一個所に集中するよりも分散した方が安全と、ロサンは判断する。
双子の姿は続いてジルコンと人を断ち切るように割り込んだジムの巨躯に、ジルコンの視野は完全に遮られた。
ジルコンは悪態をつく。
こんな混乱した終わり方など予想もしていなかった。
ロゼリア姫に、衝動的に自分の考えを伝えてしまった。
ロゼリア姫がたとえ涙ながらに縋りついたとしても自分の決定は覆ることはないが、アデールの王子の気持ちは知りたかったのである。