男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「本心から言っておられますか?どんなに美術的手工業的な価値があったとしても、女性のパンツスタイルはパジャンの女子のものです。王都内で一般人に流行り始めているとはいえ、各王家は古き血筋を引き継ぎ、いにしえの伝統が守り継がれるとても保守的なところです。そしてアデールも森と平野の国々の一部でありましょう。どうしてもパンツスタイルが良いというのでしたら、ロゼリアさまは他国の姫でございますので、お好きになされればよいと思いますが、初日だけは、いただけません」
ロゼリアは折れるしかなかった。
ララはロゼリアを化粧台の鏡の前に座らせ、ロゼリアが化粧水をつけた後に顔をマッサージしながらクリームをつける。髪は、ロゼリアの意向を聞きながらローズオイルをつけ何度もくしけずり、大きな三つ編みを片側に流す。
ポニーテールもいいかと思うが、ポニーテールはパジャン流だったので気をつかってしまう。
「紅はお持ちですか?」
「紅」
ロゼリアはサララがアンとして出立した時に持たせてくれていた紅を思い出した。一度も使ったことはなかったものである。
「とてもいいものをお持ちですね」
ララは小指で紅を掬い、ロゼリアの唇に軽く押し付けるようにしてつけた。そして紅の入った陶器の器をロゼリアに持たせた。今日一日口紅を気にしてこまめにつけるようにということの様である。
最後に仕上がりを確認すると、ようやく満足な笑みがララに浮かぶ。
「さあ、できました。参りましょう、女の戦場へ」
「わたしは、スクールに行くつもりだったのだけど」
「だから、それは女の戦場でありましょう?知力と美、教養と優雅さを競い、殿方の愛を得る。そして、将来自分の障害になりそうな女がいれば、早めに排除し、もしくは絶対逆らえないように覚え込ませておく。それを戦場といわないでなんといいますか?」
ロゼリアは絶句する。
誰かを絶句させることはあっても、させられることは稀であった。
「女官というものは、皆そうなの……?」
「いえ、これはわたしの考えです。そういう気持でロゼリアさまにお仕えしようと決めただけです。女官にはそれぞれ別のことに重きを置いているひともおられますよ。ロゼリアさまは、ジルコン殿下の婚約者ですから」
その言葉はロゼリアの胸に刺さった。
「もしかして、このようにしてくれているのは、婚約者だからというのであったら、もう必要ないかもしれない。私は婚約破棄されたんだ。なのでついてくれるのなら、そう気負わず普通でいいんだけど。ララさんではなくて、他の人に変わってもらってもいいかなと思うんだけど」
「それは、申し訳ございませんができません。アメリアさまがわたしを選ばれましたので。婚約無期限延期とは聞きましたが、それは婚約破棄ではございません。今までに、来年とか再来年とか、いつにご結婚するという日取りが話し合われたことはございましたか」
「それはないけど。無期限延期の今となってはおんなじことだと思うんだけど」
「ほら、同じではないですか。今と以前と、なんの変わりもありません。ロゼリアさまは全く気にすることはございません」
「え、それは違うと思うんだけど……」
ララは嫣然と笑う。
一歩も引かず、自分の考えを貫き通す強さ。
ロゼリアはようやく思い出した。
この感じは、母のセーラであった。
ロゼリアは折れるしかなかった。
ララはロゼリアを化粧台の鏡の前に座らせ、ロゼリアが化粧水をつけた後に顔をマッサージしながらクリームをつける。髪は、ロゼリアの意向を聞きながらローズオイルをつけ何度もくしけずり、大きな三つ編みを片側に流す。
ポニーテールもいいかと思うが、ポニーテールはパジャン流だったので気をつかってしまう。
「紅はお持ちですか?」
「紅」
ロゼリアはサララがアンとして出立した時に持たせてくれていた紅を思い出した。一度も使ったことはなかったものである。
「とてもいいものをお持ちですね」
ララは小指で紅を掬い、ロゼリアの唇に軽く押し付けるようにしてつけた。そして紅の入った陶器の器をロゼリアに持たせた。今日一日口紅を気にしてこまめにつけるようにということの様である。
最後に仕上がりを確認すると、ようやく満足な笑みがララに浮かぶ。
「さあ、できました。参りましょう、女の戦場へ」
「わたしは、スクールに行くつもりだったのだけど」
「だから、それは女の戦場でありましょう?知力と美、教養と優雅さを競い、殿方の愛を得る。そして、将来自分の障害になりそうな女がいれば、早めに排除し、もしくは絶対逆らえないように覚え込ませておく。それを戦場といわないでなんといいますか?」
ロゼリアは絶句する。
誰かを絶句させることはあっても、させられることは稀であった。
「女官というものは、皆そうなの……?」
「いえ、これはわたしの考えです。そういう気持でロゼリアさまにお仕えしようと決めただけです。女官にはそれぞれ別のことに重きを置いているひともおられますよ。ロゼリアさまは、ジルコン殿下の婚約者ですから」
その言葉はロゼリアの胸に刺さった。
「もしかして、このようにしてくれているのは、婚約者だからというのであったら、もう必要ないかもしれない。私は婚約破棄されたんだ。なのでついてくれるのなら、そう気負わず普通でいいんだけど。ララさんではなくて、他の人に変わってもらってもいいかなと思うんだけど」
「それは、申し訳ございませんができません。アメリアさまがわたしを選ばれましたので。婚約無期限延期とは聞きましたが、それは婚約破棄ではございません。今までに、来年とか再来年とか、いつにご結婚するという日取りが話し合われたことはございましたか」
「それはないけど。無期限延期の今となってはおんなじことだと思うんだけど」
「ほら、同じではないですか。今と以前と、なんの変わりもありません。ロゼリアさまは全く気にすることはございません」
「え、それは違うと思うんだけど……」
ララは嫣然と笑う。
一歩も引かず、自分の考えを貫き通す強さ。
ロゼリアはようやく思い出した。
この感じは、母のセーラであった。