男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「優雅さに欠けるというのは、動作が雑な感じがします。例えば、歩くときに音をたてたらいけませんと行儀作法の先生はいわれませんでしたか?」
「行儀作法の授業はあまり好きではなくて」
「でもそうはいってはおれません。それに今マッサージしていて確信しましたが、無駄に筋肉が付いてがちがちです。そのためにどたんどたんという歩き方になるのでしょう。かかとを痛められたのも、ふだんからヒールをはきなれていない証拠です。後ろ盾がないのは、アデール国は軍事的に強くも産業が栄えて豊かであるともいえないですし、本来であればご婚約者のジルコンさまがロゼリアさまを強力に援護する形になったのでしょうけれど、それは今となっては望めません。ですので、こちらはこれからの友人関係を大事にしてくださいとしか言えません。幸い、お兄さまが作られた人脈があるようですので、それをそのまま引き継ぐこともできそうですね」

「みっつめの自信を喪失しているというのは?」
 薄目を開けてララをみると、憐れみの目でララは見返してきたので、慌てて目をつぶった。
「愛を得られない女は総じて自信を喪失するものです。そういうものですのでご安心下さい。優雅さを身につければ、自信の方も満たされていくでしょう」
 ロゼリアは苦笑する。
「ララと話していると元気がでてきたよ。まずは優雅さということなのね」
「一にも二にも優雅さです。そのためにわたしがロゼリアさまの女官をするのですから」

 胸は大きくなれと乳首に寄せるようにマッサージされる。
 お腹は消化が良くなるように。
 腕は強張りがとれるように。
 顔は、今日の辛さや悲しさを明日に残さないように。

「大丈夫ですよ、ロゼリアさまは素材がいいのですから。夏スクールに熱心に取り組まれれば、夏スクールの成功はジルコンさまが今まさに望んでいることでありますし、ロゼリアさまのことを振り返られますよ。その時にはジルコンさまは、優雅さも備えた新たなロゼリアさまを目にすることになるでしょう。ジルコンさまを選ぶか、拒絶するかはロゼリアさまの気持ち次第となるでしょう」

 顔のマッサージで目の周りの緊張がほぐれていくにつれて、噛み締めていた奥歯が緩む。
 あらがいがたい眠りに捕まってしまう。

「そんな日が来るのかな」
「来ますよ。ロゼリアさまが縋りつくジルコンさまを手痛く振るというのも面白そうだとも思いますし。女は男に依存してはなりません……」
 
 ララのマッサージとその話術にどんどん気持ちが軽くなっていく。 
 ララは乗せるのがうまいな、そう思っているうちにロゼリアは眠ったのだった。


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