男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
 ラシャールが指さしたのはゴールデンシャワーの木の根元である。白いものが雨に打たれ泥にまみれている。
「白鼠かしら」
 ロレットが言う。
 よく見れば、白に青い色、黄色い色、オレンジの色。とりどりの色が散らばっている。
「……布だ。ハンカチ?」

 ロゼリアは拾い上げ、まるまった白い布地を広げた。
 ぐしょぬれの布地は夜空と三日月の刺繍。
 色とりどりの星が煌めいている。

「EとIの飾り文字の刺繍に月?もしかして、あなたがイリスにあげたハンカチのようだけど、どうしてこんなところに?もしかして……」

 捨てられているのではないか?
 ロゼリアはその言葉を飲み込んだ。 
 そんなことを夜通し刺繍をしてプレゼントしている本人にはとても言えない。
 ロレットは地面に足を縫い付けられたかのように固まり、そのふわふわの髪が雨の雫を飲み込み重く潰れていく。
 ロレットから笑顔が剥がれ落ちた。






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