男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
第10話 ダンス勝負
99、ダンスのペアは誰?①
ロゼリアはペアダンスは苦手である。
アデール国のなかでも森と平野の王宮で流行しているというペアダンスを教えてくれる他国からの講師が小さなころから招かれ、アンジュとロゼリアは大人たちに混ざって学んでいた。
ロゼリアが公にでるときは王子であったので、ロゼリアは男子のパートを。
アンジュは姫であったので、アンジュは女子のパートを学ぶ。
そうして、7つの時から始めは遊びの中に、年を追うごとに本格的なダンスを、招かれては一二年で後任へとバトンタッチしていく講師から二人は学ぶ。
二人が参加したのは、いずれ他国に嫁いだり、妻を迎えたりしたときにダンスの一つでもできないと駄目だろうという将来を見越してセーラ王妃の計らいであった。
セーラ王妃は、当然本来の性別へ戻してのダンスを学ばせていたつもりである。
だが、ロゼリアは12歳ぐらいの頃、女子として男子のアンジュと組んだ時に、その言いようもないちぐはぐさを感じた。
それはアンジュも同様である。
そこで、二人は母に内緒でもとに戻ったことにして、ロゼリアは男子のパートを、アンジュは女子のパートを踊り続けたのである。
だから、ロゼリアはダンスが苦手だというと誤謬がある。
厳密にいえば、ロゼリアは音楽にあわせて踊るのはとても好きである。
ただ、ペアになっての女子のパートのダンスを、今まで一度もしたことがなかったのである。
※
夏スクールのダンスの男女の講師は、G国から招かれている。
昨年ダンスのレッスンを加えることをジルコンに進言し、講師たちを推薦したのがノルだった。
ダンスのルーツは、歌とダンスで糊口をしのぎながら各地を放浪していた楽団たちであった。彼らは数十年前に戦火を逃れ、保護を求めてG国に流れてきた。
戦争を好まず芸術的なものを愛する気質の強いG国は、彼らを保護する。
統一戦争は森を焼き、より力のある者が弱き国を飲み込んでいく。
ノルのG国も例外ではなかった。
エール国を頂点としつつ半ば独立を維持する弱小国は、ひしめく国々のなかで存在感を出すべく動き出す。
淡水真珠の養殖のC国、銀細工のE国、鶏の育種のD国……。
そのなかでG国は、様々なルーツをもち独自の音楽と踊りを踊る流浪の民を保護し王家主導で音楽とダンスを発展させることを選ぶ。
音楽とダンスならばG国とすぐに連想ができるところまで高めようとする。
G国は早くからエール国に飲み込まれた故に、その生き残り戦略は着々と進む。
そして今や宮廷音楽や宮廷ダンスなどのペアダンスは、G国を頂点とし、他国から招聘されるところまで高められていった。
普段のノルの指には大きなルビーの指輪が飾る。
G国のルビーは、B国が産出するルビーよりも赤くて彩度が高いものである。
だが、鉱物はいずれ枯渇する。
鉄も木炭も金も銀も、資源はすべてそうだ。
だが音楽は、ダンスは、芸能は、ファッションは。
美を希求する者たちの内の、神に愛された才能あふれた者たちから常に新しく生み出されていく。それはどんなに時代を経たとしても決して失われることはないだろう。
だから、G国は美の基準を定め教唆、指導する者になるべく国を挙げて美への感性にすぐれたものを拾い上げる。しかるべく教育を受けさせ良い待遇で処し、飼い馴らすのだ。
ノルたちがダンスの練習会場にいくと、小規模ながら大小さまざまな弦楽器と小ぶりなリュートなどをもった楽団と、二人の背筋が伸びたダンサーが談笑していて、ノルに気が付くと挨拶をする。
今日から男女合同のレッスンが始まる。
予定では昨日午後からのレッスンが開始だったのだが長雨に道がぬかるんでいて足止めをくらい、今朝王城入りをしたのだった。
「みなさまの実力はどれぐらいですか?では手をあげてもらえますか?ペアダンスを経験したことがある方……」
森と平野の国々の王族はほぼ全員が手を挙げる。
「われわれは全く経験したことがないと思う。まずは、どういうものか拝見したいのですが」
ラシャールがいいパジャンの者たちが同意したので、二人のダンサーは楽団のワルツに合わせて会場を大きく使って踊って見せた。
簡単なステップだけで構成したワルツなのに、ほうっとため息が方々からもれるほど美しい。当然である。
初心者がいるために、初日はペアにならずにステップの練習からはじまった。
ノルは、そんな基本の基本から始めるのも面倒だと思う。
だが、幼少から習っているはずのジルコンも、女子の中ではおそらく一番上手なはずのイリスも、真面目に取り組んでいる。ノルも合わせることにした。
リズムに足をあわせながら、退屈さを紛らわせるために、スクールメンバーの様子を観察することにした。
ラシャールもアリシャンも初めは戸惑ってはいるが、すぐに形を合わせてくる。ラドー、エスト、フィンはなんとかできている。バルドは大きな体ながら、神妙な顔で頑張っている。自分が女子ならばバルドとは絶対にペアになりたくない。もし踏まれたら足を粉砕骨折でもしそうである。
レオは、定期的に間違える。
早く治さないと間違ってステップを覚えることになるだろう。
アデール国のなかでも森と平野の王宮で流行しているというペアダンスを教えてくれる他国からの講師が小さなころから招かれ、アンジュとロゼリアは大人たちに混ざって学んでいた。
ロゼリアが公にでるときは王子であったので、ロゼリアは男子のパートを。
アンジュは姫であったので、アンジュは女子のパートを学ぶ。
そうして、7つの時から始めは遊びの中に、年を追うごとに本格的なダンスを、招かれては一二年で後任へとバトンタッチしていく講師から二人は学ぶ。
二人が参加したのは、いずれ他国に嫁いだり、妻を迎えたりしたときにダンスの一つでもできないと駄目だろうという将来を見越してセーラ王妃の計らいであった。
セーラ王妃は、当然本来の性別へ戻してのダンスを学ばせていたつもりである。
だが、ロゼリアは12歳ぐらいの頃、女子として男子のアンジュと組んだ時に、その言いようもないちぐはぐさを感じた。
それはアンジュも同様である。
そこで、二人は母に内緒でもとに戻ったことにして、ロゼリアは男子のパートを、アンジュは女子のパートを踊り続けたのである。
だから、ロゼリアはダンスが苦手だというと誤謬がある。
厳密にいえば、ロゼリアは音楽にあわせて踊るのはとても好きである。
ただ、ペアになっての女子のパートのダンスを、今まで一度もしたことがなかったのである。
※
夏スクールのダンスの男女の講師は、G国から招かれている。
昨年ダンスのレッスンを加えることをジルコンに進言し、講師たちを推薦したのがノルだった。
ダンスのルーツは、歌とダンスで糊口をしのぎながら各地を放浪していた楽団たちであった。彼らは数十年前に戦火を逃れ、保護を求めてG国に流れてきた。
戦争を好まず芸術的なものを愛する気質の強いG国は、彼らを保護する。
統一戦争は森を焼き、より力のある者が弱き国を飲み込んでいく。
ノルのG国も例外ではなかった。
エール国を頂点としつつ半ば独立を維持する弱小国は、ひしめく国々のなかで存在感を出すべく動き出す。
淡水真珠の養殖のC国、銀細工のE国、鶏の育種のD国……。
そのなかでG国は、様々なルーツをもち独自の音楽と踊りを踊る流浪の民を保護し王家主導で音楽とダンスを発展させることを選ぶ。
音楽とダンスならばG国とすぐに連想ができるところまで高めようとする。
G国は早くからエール国に飲み込まれた故に、その生き残り戦略は着々と進む。
そして今や宮廷音楽や宮廷ダンスなどのペアダンスは、G国を頂点とし、他国から招聘されるところまで高められていった。
普段のノルの指には大きなルビーの指輪が飾る。
G国のルビーは、B国が産出するルビーよりも赤くて彩度が高いものである。
だが、鉱物はいずれ枯渇する。
鉄も木炭も金も銀も、資源はすべてそうだ。
だが音楽は、ダンスは、芸能は、ファッションは。
美を希求する者たちの内の、神に愛された才能あふれた者たちから常に新しく生み出されていく。それはどんなに時代を経たとしても決して失われることはないだろう。
だから、G国は美の基準を定め教唆、指導する者になるべく国を挙げて美への感性にすぐれたものを拾い上げる。しかるべく教育を受けさせ良い待遇で処し、飼い馴らすのだ。
ノルたちがダンスの練習会場にいくと、小規模ながら大小さまざまな弦楽器と小ぶりなリュートなどをもった楽団と、二人の背筋が伸びたダンサーが談笑していて、ノルに気が付くと挨拶をする。
今日から男女合同のレッスンが始まる。
予定では昨日午後からのレッスンが開始だったのだが長雨に道がぬかるんでいて足止めをくらい、今朝王城入りをしたのだった。
「みなさまの実力はどれぐらいですか?では手をあげてもらえますか?ペアダンスを経験したことがある方……」
森と平野の国々の王族はほぼ全員が手を挙げる。
「われわれは全く経験したことがないと思う。まずは、どういうものか拝見したいのですが」
ラシャールがいいパジャンの者たちが同意したので、二人のダンサーは楽団のワルツに合わせて会場を大きく使って踊って見せた。
簡単なステップだけで構成したワルツなのに、ほうっとため息が方々からもれるほど美しい。当然である。
初心者がいるために、初日はペアにならずにステップの練習からはじまった。
ノルは、そんな基本の基本から始めるのも面倒だと思う。
だが、幼少から習っているはずのジルコンも、女子の中ではおそらく一番上手なはずのイリスも、真面目に取り組んでいる。ノルも合わせることにした。
リズムに足をあわせながら、退屈さを紛らわせるために、スクールメンバーの様子を観察することにした。
ラシャールもアリシャンも初めは戸惑ってはいるが、すぐに形を合わせてくる。ラドー、エスト、フィンはなんとかできている。バルドは大きな体ながら、神妙な顔で頑張っている。自分が女子ならばバルドとは絶対にペアになりたくない。もし踏まれたら足を粉砕骨折でもしそうである。
レオは、定期的に間違える。
早く治さないと間違ってステップを覚えることになるだろう。