男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
ぜいぜいと肩で息をしていた二組のペアが、ほっと一息つけたと思ったのもつかの間、ワルツが始まる。
楽団の演奏は、今までのどの曲よりも丁寧で伸びやかであった。
ロゼリアの背筋は自然と伸びて、正しい形をとった。
ジルコンも同様である。
今度は正式なワルツを評価されるのだと最後の二組は瞬時に悟った。
「楽しく踊ろう」
ロゼリアの緊張が伝わったのかジルコンがロゼリアに囁きかけた。
そして第一歩。
ジルコンの一歩はスクールでの一歩よりも大きい。
普段、大きすぎるといわれ続けたロゼリアに合わせた大きな一歩である。
ふたりの息は既に限界まで上がっている。
熱くて汗が身体中から噴き出し、背中からは汗が滴り落ちている。
心臓は今にも爆発するかもしれないと思えるぐらい、胸腔を叩いていた。
ジルコンは先の未来を見据えているかのような真剣な目をして、ちらりちらりとロゼリアに視線を送る。
くっきりとした口元に、笑みが浮かんでいた。
ジルコンの呼吸もロゼリアに負けないぐらい荒く、熱い。
いたずら気にジルコンは言った。
「お転婆ロズはこういうの好きだろ?」
「大好きよ!」
ありないほど大きなステップで走るように踊るペアは、この場にいる大勢の観客は目にしたことのないもの。
ジルコンも自分がこれほど走るように踊れるとも思っていなかったし、手を軽くつないだだけのロゼリアが何もいわなくてもついてこれると思えるのが不思議なぐらいだった。
肺も心臓も二人は一つを共有しているような気がした。
ジルコンはロゼリアが、ロゼリアはジルコンがどうしたいのか言わなくても伝わった。
ふたりは氷上を滑るようにして踊る。
歓声をあげることも忘れて観客たちは見とれた。
もう一組のペアのダンスもなめらかで艶やかだ。
仮面をつけているのも同じ。
その男性は気品が溢れている。実は彼は、どこかの国の王子さまでしたといわれても、この場にいる者は納得していただろう。
女性には指先まで意識が行き届いている。
振り撒くような華やかさがあった。
だが、黒金と蛇鱗の仮面のペアと比べると、わざとらしい演出のように見えてしまう。
スローモーションのようで、どこか物足りない。
例年ならば文句なく彼らは優勝を勝ち取っていただろう。
だが、今まさに観客と審査員の目をくぎ付けにしているのは彼らではない。
まるで一羽の鳥のようにも思える黒金と蛇鱗のペアが、対決するもう一組の王子の視線さえも捕らえてはなさない。
いつの間にかもう一組は棄権していた。
残されたロゼリアとジルコンは、そのことにも気付かず、互いをみつめあいながら最後まで踊り切ったのである。
優勝賞品は、一抱えほどある王家醸造の酒樽。
王城前祭壇に備えられた、黒に狼模様の、王家の紋章が張り付けられたそれである。
それを聞いた仮面の二人は顔を見合わせ、こらえきれずに笑った。
「さあ、素晴らしいワルツダンスをご披露くださり見事優勝を勝ち取ったお二人のお名前をお聞かせください!」
だが、二人の名前は明かされることはなかった。
優勝賞品の貴重な酒は、この場で応援してくれた皆さまに大盤振る舞いさせてほしいと男性が高々と宣言し、手をつないで逃げるようにして勝負の舞台から退場する。
会場は今日一番に盛り上がったのだった。
楽団の演奏は、今までのどの曲よりも丁寧で伸びやかであった。
ロゼリアの背筋は自然と伸びて、正しい形をとった。
ジルコンも同様である。
今度は正式なワルツを評価されるのだと最後の二組は瞬時に悟った。
「楽しく踊ろう」
ロゼリアの緊張が伝わったのかジルコンがロゼリアに囁きかけた。
そして第一歩。
ジルコンの一歩はスクールでの一歩よりも大きい。
普段、大きすぎるといわれ続けたロゼリアに合わせた大きな一歩である。
ふたりの息は既に限界まで上がっている。
熱くて汗が身体中から噴き出し、背中からは汗が滴り落ちている。
心臓は今にも爆発するかもしれないと思えるぐらい、胸腔を叩いていた。
ジルコンは先の未来を見据えているかのような真剣な目をして、ちらりちらりとロゼリアに視線を送る。
くっきりとした口元に、笑みが浮かんでいた。
ジルコンの呼吸もロゼリアに負けないぐらい荒く、熱い。
いたずら気にジルコンは言った。
「お転婆ロズはこういうの好きだろ?」
「大好きよ!」
ありないほど大きなステップで走るように踊るペアは、この場にいる大勢の観客は目にしたことのないもの。
ジルコンも自分がこれほど走るように踊れるとも思っていなかったし、手を軽くつないだだけのロゼリアが何もいわなくてもついてこれると思えるのが不思議なぐらいだった。
肺も心臓も二人は一つを共有しているような気がした。
ジルコンはロゼリアが、ロゼリアはジルコンがどうしたいのか言わなくても伝わった。
ふたりは氷上を滑るようにして踊る。
歓声をあげることも忘れて観客たちは見とれた。
もう一組のペアのダンスもなめらかで艶やかだ。
仮面をつけているのも同じ。
その男性は気品が溢れている。実は彼は、どこかの国の王子さまでしたといわれても、この場にいる者は納得していただろう。
女性には指先まで意識が行き届いている。
振り撒くような華やかさがあった。
だが、黒金と蛇鱗の仮面のペアと比べると、わざとらしい演出のように見えてしまう。
スローモーションのようで、どこか物足りない。
例年ならば文句なく彼らは優勝を勝ち取っていただろう。
だが、今まさに観客と審査員の目をくぎ付けにしているのは彼らではない。
まるで一羽の鳥のようにも思える黒金と蛇鱗のペアが、対決するもう一組の王子の視線さえも捕らえてはなさない。
いつの間にかもう一組は棄権していた。
残されたロゼリアとジルコンは、そのことにも気付かず、互いをみつめあいながら最後まで踊り切ったのである。
優勝賞品は、一抱えほどある王家醸造の酒樽。
王城前祭壇に備えられた、黒に狼模様の、王家の紋章が張り付けられたそれである。
それを聞いた仮面の二人は顔を見合わせ、こらえきれずに笑った。
「さあ、素晴らしいワルツダンスをご披露くださり見事優勝を勝ち取ったお二人のお名前をお聞かせください!」
だが、二人の名前は明かされることはなかった。
優勝賞品の貴重な酒は、この場で応援してくれた皆さまに大盤振る舞いさせてほしいと男性が高々と宣言し、手をつないで逃げるようにして勝負の舞台から退場する。
会場は今日一番に盛り上がったのだった。