男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
第4部 花嫁編 第11話 エールの青
110、※淫夢
はじめは彼の、生意気なところが鼻についた。
彼が当たり前のように享受する平和な日常が、辺境に位置し、前面は深い森、背面は岩場に守られたその地理的な幸運にすぎないことなど思いもしていない。
戦乱にその土地も民も踏みにじられる憤りを感じたこともないだろう。
大義や、いやそんな大それたものでもなく、自分や大事な人の命を守るために、他人の命を犠牲にしたこともないような、平和ボケした顔。
そのくせ、負けん気ばかりが強くて、挑発に簡単に乗ってしまう愚かさには、笑いを誘われてしまうぐらいであった。
彼を連れ帰ることなど全く想定していなかった。
16歳になったばかりの妹姫と婚約を結び、そのままエール国まで連れ帰り婚姻をあげてしまおうと思っていたぐらいだったのだ。
森と平野の国々をまとめ上げ宗主国となりあがった強国エールに、直系男子は己だけ。
父も母も老人たちも早く婚姻せよという。
本当のところは、ジルコンは自分に子供がいてもいなくても、父である強王、フォルス王は困らないことを知っている。
フォルス王の望みの中心は、彼自身が覇王になること、その時に愛するアメリアが傍にいればいい。
ただそれだけなのだから。
世間知らずのアデールの王子を連れ帰ってきたのは、流されることへの反抗心からか。
正直、結婚など興味がない。
アデールの姫を選んだのも、勝手にどこぞの化粧臭い女と政略結婚をさせられるよりかは、子供のころに少しでも好意を抱いた女の子だったら、結婚してもいいかなという程度である。それに、すぐに結婚しなくても少しばかり回り道をしてもたいして違いがないように思われたからだ。
世間知らずで生意気なアデールの王子は、美しさの点で際立っていた。
光を浴びて煌めく黄金の髪は女のように長くしているが、甘さもなくきちりと三つ編みに一つにまとめられている。
肌は男くささの欠片もなく、近づくといい匂いがした。
生意気に加えて、自由奔放でありながら頑張り屋。
誰かに拒絶されることがなく愛されて育った者が持つ独特の無邪気さ。
そのどれもが眩しい。眼が離せない。
父への対抗心と己の高い理想と義務感でがんじがらめとなっていた己の心を、いつの間にかやんわりとときほぐしてくれていた。
アデールの王子をたちまち気に入ってしまった。
気に入り方は、自分でもおかしいぐらいだった。
普段一緒に行動するロサンにもジムにもアヤにも、そのほかの黒騎士たちにも一度も感じたことのない、愛着。いや、執着か。
その笑顔を他の誰にも見せないで欲しいと思った。
自分のことを第一に考えて欲しいと思った。
何があっても奔放さを失わないで欲しいと思った。
できるならば、ずっと手元においておきたいと思った。
それだけではなくて。
その唇に唇を押し付けてやわらかな唇をかじりたいと思ったし、己の舌を彼の口の中に差し込みその舌を追いかけ絡め吸い上げたいと思った。
まとめた髪に手を差し入れてほどきとき、胸の前に光の滝のように落とし、首の上までしっかりと止める上着を脱がし、肌着も脱がし、どきどきと脈打つ胸をなでさすり、固くなった小さな頂に舌を添わせ、己の所有の印を残したいと思った。
男が男を愛することができるというが、自分には全く関係のないことだと思っていた。
だが、アデールの王子を前にすると、彼が男であっても、己は肉体的に愛せるであろうことも知った。
ふとした瞬間に、己の身体は彼を前にして反応する。
熱くなり、固くなり、ひくついた。
彼の、誰にも触れたことない身体の奥深く、その内臓の熱と圧を感じたいと思ったし、痛みに顔をゆがませ、自分にしがみつかせたいと思った。
己の愛と欲望が、アデールの王子に一直線に向かっていく。
現実には、一線を踏み越えることなどできない。
愛しているとささやくこともできない。
彼の襟の留め具を解くことなどできないし、己の熱く滾るものをその口に含ませることもできない。
悦楽に顔をゆがませ喘がせることもできないし、彼を激しくゆすりながら絶頂に突き上げることもできない。
己にできるのは、闇が全てを隠す頃。
目を閉じて、彼の肌の艶やかさや、髪の手触りを思い浮かべ、最後にベッドに押し倒して唇を奪ったあの感覚を、再現するだけ。
現実には彼の確固たる拒絶の意思を感じて、先に進むことができなかったけれど、誰も知らない夜の夢のしじまの中ではなんだってできる。
服を一枚一枚、はがしていき、一糸まとわぬ姿を堪能することもできる。
その時は、己のまとうものも、アデールの王子の手によってむしられるように脱がされていく。
今夜は。
その白い胸に顔をうずめる。
その胸は男にしてはふっくらとしていて、女のような胸で……。
その腹はなめらかで、吸い付くような手触りで……。
よだれをたらしとろつく身体の中へ、滾る己を深く沈めながら、美しい人の名を何度も何度も呼ぶ。
最後は唇を重ね、その舌を吸い上げながら己の熱を吐露する……。
ジルコンは自分の声で、甘い夢から急激に現実世界へ引き戻された。
窓の外はじらじらと明るみ始めているが、活動するにはまだ早い。
夢のなかで愛をかわしたために、息が上がり、身体が熱く、汗だくだった。
身体を起し、のろのろとシーツをめくり、己の吐きだした官能の残滓を見る。
現実ではジルコンの愛したアデールの王子は去り、同じ顔の姫が図々しくも居座った。
そして、夢の中で何度も呼んだその名前は、抱いたその身体は双子の姫の……。
「嘘だろ、俺は、アンを愛している。何を惑わされているんだ。俺はクソっ」
彼が当たり前のように享受する平和な日常が、辺境に位置し、前面は深い森、背面は岩場に守られたその地理的な幸運にすぎないことなど思いもしていない。
戦乱にその土地も民も踏みにじられる憤りを感じたこともないだろう。
大義や、いやそんな大それたものでもなく、自分や大事な人の命を守るために、他人の命を犠牲にしたこともないような、平和ボケした顔。
そのくせ、負けん気ばかりが強くて、挑発に簡単に乗ってしまう愚かさには、笑いを誘われてしまうぐらいであった。
彼を連れ帰ることなど全く想定していなかった。
16歳になったばかりの妹姫と婚約を結び、そのままエール国まで連れ帰り婚姻をあげてしまおうと思っていたぐらいだったのだ。
森と平野の国々をまとめ上げ宗主国となりあがった強国エールに、直系男子は己だけ。
父も母も老人たちも早く婚姻せよという。
本当のところは、ジルコンは自分に子供がいてもいなくても、父である強王、フォルス王は困らないことを知っている。
フォルス王の望みの中心は、彼自身が覇王になること、その時に愛するアメリアが傍にいればいい。
ただそれだけなのだから。
世間知らずのアデールの王子を連れ帰ってきたのは、流されることへの反抗心からか。
正直、結婚など興味がない。
アデールの姫を選んだのも、勝手にどこぞの化粧臭い女と政略結婚をさせられるよりかは、子供のころに少しでも好意を抱いた女の子だったら、結婚してもいいかなという程度である。それに、すぐに結婚しなくても少しばかり回り道をしてもたいして違いがないように思われたからだ。
世間知らずで生意気なアデールの王子は、美しさの点で際立っていた。
光を浴びて煌めく黄金の髪は女のように長くしているが、甘さもなくきちりと三つ編みに一つにまとめられている。
肌は男くささの欠片もなく、近づくといい匂いがした。
生意気に加えて、自由奔放でありながら頑張り屋。
誰かに拒絶されることがなく愛されて育った者が持つ独特の無邪気さ。
そのどれもが眩しい。眼が離せない。
父への対抗心と己の高い理想と義務感でがんじがらめとなっていた己の心を、いつの間にかやんわりとときほぐしてくれていた。
アデールの王子をたちまち気に入ってしまった。
気に入り方は、自分でもおかしいぐらいだった。
普段一緒に行動するロサンにもジムにもアヤにも、そのほかの黒騎士たちにも一度も感じたことのない、愛着。いや、執着か。
その笑顔を他の誰にも見せないで欲しいと思った。
自分のことを第一に考えて欲しいと思った。
何があっても奔放さを失わないで欲しいと思った。
できるならば、ずっと手元においておきたいと思った。
それだけではなくて。
その唇に唇を押し付けてやわらかな唇をかじりたいと思ったし、己の舌を彼の口の中に差し込みその舌を追いかけ絡め吸い上げたいと思った。
まとめた髪に手を差し入れてほどきとき、胸の前に光の滝のように落とし、首の上までしっかりと止める上着を脱がし、肌着も脱がし、どきどきと脈打つ胸をなでさすり、固くなった小さな頂に舌を添わせ、己の所有の印を残したいと思った。
男が男を愛することができるというが、自分には全く関係のないことだと思っていた。
だが、アデールの王子を前にすると、彼が男であっても、己は肉体的に愛せるであろうことも知った。
ふとした瞬間に、己の身体は彼を前にして反応する。
熱くなり、固くなり、ひくついた。
彼の、誰にも触れたことない身体の奥深く、その内臓の熱と圧を感じたいと思ったし、痛みに顔をゆがませ、自分にしがみつかせたいと思った。
己の愛と欲望が、アデールの王子に一直線に向かっていく。
現実には、一線を踏み越えることなどできない。
愛しているとささやくこともできない。
彼の襟の留め具を解くことなどできないし、己の熱く滾るものをその口に含ませることもできない。
悦楽に顔をゆがませ喘がせることもできないし、彼を激しくゆすりながら絶頂に突き上げることもできない。
己にできるのは、闇が全てを隠す頃。
目を閉じて、彼の肌の艶やかさや、髪の手触りを思い浮かべ、最後にベッドに押し倒して唇を奪ったあの感覚を、再現するだけ。
現実には彼の確固たる拒絶の意思を感じて、先に進むことができなかったけれど、誰も知らない夜の夢のしじまの中ではなんだってできる。
服を一枚一枚、はがしていき、一糸まとわぬ姿を堪能することもできる。
その時は、己のまとうものも、アデールの王子の手によってむしられるように脱がされていく。
今夜は。
その白い胸に顔をうずめる。
その胸は男にしてはふっくらとしていて、女のような胸で……。
その腹はなめらかで、吸い付くような手触りで……。
よだれをたらしとろつく身体の中へ、滾る己を深く沈めながら、美しい人の名を何度も何度も呼ぶ。
最後は唇を重ね、その舌を吸い上げながら己の熱を吐露する……。
ジルコンは自分の声で、甘い夢から急激に現実世界へ引き戻された。
窓の外はじらじらと明るみ始めているが、活動するにはまだ早い。
夢のなかで愛をかわしたために、息が上がり、身体が熱く、汗だくだった。
身体を起し、のろのろとシーツをめくり、己の吐きだした官能の残滓を見る。
現実ではジルコンの愛したアデールの王子は去り、同じ顔の姫が図々しくも居座った。
そして、夢の中で何度も呼んだその名前は、抱いたその身体は双子の姫の……。
「嘘だろ、俺は、アンを愛している。何を惑わされているんだ。俺はクソっ」