男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
112、祝いの訪問者たち
ジルコンが席を外す時が多くなっていた。
表敬訪問がこのところ多く、王が応対する謁見の間へ足を運んでいる。
ロレットは誰が来たのか情報を仕入れてきてはロゼリアに教えてくれる。
ノルのG国、フィンのE国、ラドーのC国、エストのD国、バルドのH国、ロレットのB国……。
彼らが来るときは、スクールに参加しているその国の王子やその護衛たちも出迎える。
フォルス王やジルコンとともに、自国の使者たちを歓迎する。
訪問者たちは、エールの王城に部屋を用意され滞在することもあれば、エール王都の温泉旅館に宿泊し、観劇や博物館などを楽しんだりして帰国することもある。
この時期、各国の使者たちがエール王城へ訪問するのには訳がある。
もうじきジルコン王子の誕生日なのだ。
19歳の誕生日の祝賀を兼ねての表敬訪問、夏スクールに参加している自国の王子や姫たちから話を聞くことを目的としているようであった。
その夜は毎週恒例、持ち回りで担当となり、夜の食事のおもてなしをする懇親会兼食事会である。
ロゼリアはまだ担当になったことがない。
今回はウォラスの二回目の担当である。自国から料理人は連れてきているが、以前たくさん呼んでいた浮ついた女子たちの姿は一人もいない。
その代わり、ウォラスの手伝いをジュリアがしている。
ウォラスの華やかな食事にエールの薬食同源を合わせた、見た目にも体にもよさそうな食事が並んでいた。
週末の食事会に遅れて参加してきたジルコンは疲れた顔をしていた。
入ってくるなり、俺の誕生日に特別な贈答品などはいらない、それでも押し付けようとするのならば児童施設と更生施設に寄付させてもらう、と宣言する。
そう言ってからぐるりと参加者の顔を確認する。
ロゼリアと視線が絡むが、すぐに解けてしまった。
ホスト役としての仕事が一段落ついたウォラスが一人でいるところへ、ロゼリアは近づいた。
「ウォラス、質問があるんだけど」
「おわ!アデールの、姫じゃないか」
声をかけたぐらいで驚きすぎである。
ロゼリアはウォラスと共にさりげなく壁際までいく。
アデールの姫となってからウォラスと直接話をするのは初めてである。
ウォラスはあの事件以来、人が変わったように真面目になっている。
ジュリア以外の女子とは無駄話をしないことを貫いているようであった。
「そのアデールの姫がわたしに質問っていうのは?」
ウォラスの視線はジュリアを追っている。
「その、男女について聞くのはウォラスが詳しいかなと思って」
「例の、宮廷の遊びってやつ?」
そういい、ウォラスは自嘲気味に口をゆがませ笑った。
「遊びでなくて本気の話。ウォラスはジュリアと頬にキスしたり、口にキスしたり、肌を触れ合ったりしたことがある?」
ウォラスはロゼリアをまじまじとみた。
「……それは何の調査?」
「調査じゃなくて。恋人同士はどこまで進むものなのかなと思って」
ウォラスはロゼリアの視線を追いかける。
ウォラスがジュリアを見るように、ロゼリアはジルコンを見ていた。
「悩み事ですか。王族の男は案外、遊んでいる。潔癖じゃない限り、浮いた噂のひとつやふたつはみんな持っているよ。王族女子は、浮いた噂は厳禁だ。女子が遊べば、その女子が生んだ子の血統が疑われるから。だから、数世代前までは結婚前に純潔を確認する公開儀式まで行われていた国もある。今は、そこまでするところはないけれど、婚姻前に出産できるからだであるかどうかの医療チェックという名の妊娠チェックをしているところも多い。生理が来るまで隔離したりとかそういうヤツ」
「それは一般的な王族女子の話よね。婚約関係にある男女の場合は?」
ちらりとウォラスはロゼリアを見る。
「婚約関係にある王族女子の場合は、結婚を前提にしている以上、本人たちの合意に基づいて、いたるところへのキス……」
「いたるところへの?」
「……や、軽い触れ合い程度は許されているんじゃないかな。それ以上して、妊娠などすることになってしまえば、婚約しているのならば婚約者の子、他の者の子であれば速やかに婚約を解消し、子の父親と結婚しなければならない。王族の場合はそのあたり世間一般とは違って厳格であると理解していた方がいい。まあ、子ができた場合の対処は他にもいろいろと考えられそうだけど、それも父母子にとってはいろいろ複雑な問題が生じてくるだろうな。だから、良識ある男女は、キスや軽い触れ合い程度で互いの気持ちを確かめあうだけで、初夜で初めて、その、接合することになる」
ウォラスはロゼリアの質問の意図がわからないなりに、言葉を選びながら言う。
「婚約している男女はキスや触れ合い程度は気持ちを確かめるうえで普通はするということよね?それ以上はしない。そういうことね」
表敬訪問がこのところ多く、王が応対する謁見の間へ足を運んでいる。
ロレットは誰が来たのか情報を仕入れてきてはロゼリアに教えてくれる。
ノルのG国、フィンのE国、ラドーのC国、エストのD国、バルドのH国、ロレットのB国……。
彼らが来るときは、スクールに参加しているその国の王子やその護衛たちも出迎える。
フォルス王やジルコンとともに、自国の使者たちを歓迎する。
訪問者たちは、エールの王城に部屋を用意され滞在することもあれば、エール王都の温泉旅館に宿泊し、観劇や博物館などを楽しんだりして帰国することもある。
この時期、各国の使者たちがエール王城へ訪問するのには訳がある。
もうじきジルコン王子の誕生日なのだ。
19歳の誕生日の祝賀を兼ねての表敬訪問、夏スクールに参加している自国の王子や姫たちから話を聞くことを目的としているようであった。
その夜は毎週恒例、持ち回りで担当となり、夜の食事のおもてなしをする懇親会兼食事会である。
ロゼリアはまだ担当になったことがない。
今回はウォラスの二回目の担当である。自国から料理人は連れてきているが、以前たくさん呼んでいた浮ついた女子たちの姿は一人もいない。
その代わり、ウォラスの手伝いをジュリアがしている。
ウォラスの華やかな食事にエールの薬食同源を合わせた、見た目にも体にもよさそうな食事が並んでいた。
週末の食事会に遅れて参加してきたジルコンは疲れた顔をしていた。
入ってくるなり、俺の誕生日に特別な贈答品などはいらない、それでも押し付けようとするのならば児童施設と更生施設に寄付させてもらう、と宣言する。
そう言ってからぐるりと参加者の顔を確認する。
ロゼリアと視線が絡むが、すぐに解けてしまった。
ホスト役としての仕事が一段落ついたウォラスが一人でいるところへ、ロゼリアは近づいた。
「ウォラス、質問があるんだけど」
「おわ!アデールの、姫じゃないか」
声をかけたぐらいで驚きすぎである。
ロゼリアはウォラスと共にさりげなく壁際までいく。
アデールの姫となってからウォラスと直接話をするのは初めてである。
ウォラスはあの事件以来、人が変わったように真面目になっている。
ジュリア以外の女子とは無駄話をしないことを貫いているようであった。
「そのアデールの姫がわたしに質問っていうのは?」
ウォラスの視線はジュリアを追っている。
「その、男女について聞くのはウォラスが詳しいかなと思って」
「例の、宮廷の遊びってやつ?」
そういい、ウォラスは自嘲気味に口をゆがませ笑った。
「遊びでなくて本気の話。ウォラスはジュリアと頬にキスしたり、口にキスしたり、肌を触れ合ったりしたことがある?」
ウォラスはロゼリアをまじまじとみた。
「……それは何の調査?」
「調査じゃなくて。恋人同士はどこまで進むものなのかなと思って」
ウォラスはロゼリアの視線を追いかける。
ウォラスがジュリアを見るように、ロゼリアはジルコンを見ていた。
「悩み事ですか。王族の男は案外、遊んでいる。潔癖じゃない限り、浮いた噂のひとつやふたつはみんな持っているよ。王族女子は、浮いた噂は厳禁だ。女子が遊べば、その女子が生んだ子の血統が疑われるから。だから、数世代前までは結婚前に純潔を確認する公開儀式まで行われていた国もある。今は、そこまでするところはないけれど、婚姻前に出産できるからだであるかどうかの医療チェックという名の妊娠チェックをしているところも多い。生理が来るまで隔離したりとかそういうヤツ」
「それは一般的な王族女子の話よね。婚約関係にある男女の場合は?」
ちらりとウォラスはロゼリアを見る。
「婚約関係にある王族女子の場合は、結婚を前提にしている以上、本人たちの合意に基づいて、いたるところへのキス……」
「いたるところへの?」
「……や、軽い触れ合い程度は許されているんじゃないかな。それ以上して、妊娠などすることになってしまえば、婚約しているのならば婚約者の子、他の者の子であれば速やかに婚約を解消し、子の父親と結婚しなければならない。王族の場合はそのあたり世間一般とは違って厳格であると理解していた方がいい。まあ、子ができた場合の対処は他にもいろいろと考えられそうだけど、それも父母子にとってはいろいろ複雑な問題が生じてくるだろうな。だから、良識ある男女は、キスや軽い触れ合い程度で互いの気持ちを確かめあうだけで、初夜で初めて、その、接合することになる」
ウォラスはロゼリアの質問の意図がわからないなりに、言葉を選びながら言う。
「婚約している男女はキスや触れ合い程度は気持ちを確かめるうえで普通はするということよね?それ以上はしない。そういうことね」