男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「奥だけでなくて未来にもとてつもなく広がっている。エールのあの唐変木があなたを蔑ろにするのなら、あなたは、別の可能性を、未来を掴めばいい」
「別の未来」
「あなたが望みさえすれば、たいていの男はその手を取りあなたの望みをかなえたいと思うだろう。エストや、ノルだってあなたに惹かれていた」
思いがけない名前に、ロゼリアは噴き出した。
「エストもノルも、友達だわ!」
「……彼ら以外にも他にもいるとは思わないか?」
「それは、ディーンとか?」
「ディーンとは?」
「ディーンとは、赤毛の傭兵。わたしの体術と剣術の師匠よ。彼もずっと傍にいてくれる。今も街の中で見守ってくれていると思う」
「……その傭兵以外に、いるとは思わないのか?」
「わからないわ。ラシャールにも、そういう人がいるの?」
「わたしは……」
ラシャールは言葉に詰まる。
そして今度はラシャールが噴き出した。
「あはは。ウォラスがあなたにねんねと言っていたが、本当に、深刻に、やばい。参ったな」
ラシャールは、顔を寄せ、暖かな風がかすめていくようなキスをする。
急にロゼリアは悲しくなる。
そのようなキスでも欲しい人からは一度もされていないのだ。
「もう一度いう。あなたは自分のことがわかっていない。ロゼ、あなたが望めば拒める男はいない」
「……ジルはしてくれないわ」
「そんな男は見捨ててしまえ」
「そんなこと……」
できるのだろうか。
ラシャールは耳を澄ませた。
ロゼリアの聞き取れない音を聞き取ったのかもしれない。
「もう部屋に戻った方がいいのではないか」
「そうね……」
あくびもふわっと出る。ようやく眠りの気配を瞼に感じる。
数歩歩いてベランダの扉に手をかけた。
「わたしが望めば拒める男はいないって、本当かしら。ならどうしてジルは……」
振り返っても、バルコニーには誰もいない。
後から思い出そうとしても夢の出来事にしか思えないようなひと時である。
その後、ロゼリアはぐっすりと朝まで眠ったのである。
「別の未来」
「あなたが望みさえすれば、たいていの男はその手を取りあなたの望みをかなえたいと思うだろう。エストや、ノルだってあなたに惹かれていた」
思いがけない名前に、ロゼリアは噴き出した。
「エストもノルも、友達だわ!」
「……彼ら以外にも他にもいるとは思わないか?」
「それは、ディーンとか?」
「ディーンとは?」
「ディーンとは、赤毛の傭兵。わたしの体術と剣術の師匠よ。彼もずっと傍にいてくれる。今も街の中で見守ってくれていると思う」
「……その傭兵以外に、いるとは思わないのか?」
「わからないわ。ラシャールにも、そういう人がいるの?」
「わたしは……」
ラシャールは言葉に詰まる。
そして今度はラシャールが噴き出した。
「あはは。ウォラスがあなたにねんねと言っていたが、本当に、深刻に、やばい。参ったな」
ラシャールは、顔を寄せ、暖かな風がかすめていくようなキスをする。
急にロゼリアは悲しくなる。
そのようなキスでも欲しい人からは一度もされていないのだ。
「もう一度いう。あなたは自分のことがわかっていない。ロゼ、あなたが望めば拒める男はいない」
「……ジルはしてくれないわ」
「そんな男は見捨ててしまえ」
「そんなこと……」
できるのだろうか。
ラシャールは耳を澄ませた。
ロゼリアの聞き取れない音を聞き取ったのかもしれない。
「もう部屋に戻った方がいいのではないか」
「そうね……」
あくびもふわっと出る。ようやく眠りの気配を瞼に感じる。
数歩歩いてベランダの扉に手をかけた。
「わたしが望めば拒める男はいないって、本当かしら。ならどうしてジルは……」
振り返っても、バルコニーには誰もいない。
後から思い出そうとしても夢の出来事にしか思えないようなひと時である。
その後、ロゼリアはぐっすりと朝まで眠ったのである。