男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「子供のころに入れ替わったりしたという戯言の話か?その話は10年前のちいさなお転婆の女の子から聞いたよ」
再びふたりは吸い寄せられるように近づいた。
上と下と、叩き合わせる合間に、振り返りざまに、言葉を交わす。
「あれは、数年で終わったんだろ?そうアンジュが言っていたように思うんだが」
ロゼリアは悲しく笑った。
「アデールを出てエールに向かう途中で、アンジュが黒騎士たちの剣術の洗礼を受けたことを覚えている?」
「もちろん。あの時は二時間ぶっ通しでアンが黒騎士たちと勝負したんだ」
「アンには赤い傭兵から伝授された必殺の特技をもっているのも覚えている?」
「剣の重心を見抜いて、ある一点を狙って打てば、衝撃が大きく振動となって伝わり、しびれて持てなくなるというあれだろう?アヤが衝撃を受けて、みんなが試したがった。あの後、黒騎士たちはひそかに練習したみたいだが、意図した通りにはいかないようで、最近は聞かなくなったな」
「あれ、わたしもできるの」
「そんなに簡単にできるもんじゃないだろ」
「だから必死に練習した。今でも10回すれば8回は成功できると思う。次のターンの右の時にやるから覚悟して」
「冗談をいうなよ」
ジルコンは取り合わない。
二人は再び離れ、くるりと舞台を周り、そして近づいた。
上、下、左回転、左、そして、ロゼリアは狙った。
「右!」
闇を切り裂くような鋭い音が響いた。
ジルコンの剣はしっかりと握ったはずの手の中で震え、飛び跳ね、ぽとりと足元に落ちた。
何が繰り出されたかを知り、驚いたのは黒騎士たちである。
「アンのあの必殺技がでたの?」
アヤが身を乗り出した。
隣のジムに確認している。
ジルコンはしびれる手首を押さえ、その場に立ち尽くしていた。
すぐに剣を拾えない。
ロゼリアはそんなジルコンに構わず一人で舞台を周回する。
次のターンがすぐにやってくる。その時にはジルコンは剣を拾い上げて構えていた。
顔が引き締まり、ロゼリアの剣先から視線が離れない。
「強くいかせてもらう」
太鼓の音が二人のステップに合わせて早くなった。
繰り出される剣は早い。
上下打ち鳴らすと回転するのも速い。
振り向きざまに左右の剣が出される。
決められた場所を狙うとはいえ、ジルコンの剣筋には先ほどにはない気迫がこもっていた。
黒騎士たちもジュリアたちも、目の前でひらめく剣筋の鋭さに息を飲んだ。
まるで本気の試合のようであったからだ。
だが、彼らが心配したようにはロゼリアが打ちのめされたわけではない。
青灰色の眼は緊張の色を帯びているが、動作は機敏で力強かった。
ロゼリアの動作は、繰り返し練習し身体に覚えこませた動きのように思えた。
実戦のための、腰を落とした全方向へ対応できる動きである。
ロゼリアはジルコンから繰り出される鋭い攻撃を受け止め流した。
最後の左でロゼリアは狙う。
ジルコンの手から剣が、再び、生き物のように跳ね飛んだ。
足もとの地面にジルコンの剣は突き刺さる。
「あなたは、誰だ」
その声は震え、その目はあり得ないものを前にして、見開かれていた。
もはやジルコンにはこの場を楽しむ余裕もない。
ふたりがしているのが雨乞いの祈祷の剣舞であることも忘れた。
舞台を周回するロゼリアへ距離を詰めた。
行く手を塞ぎ、剣を奪うと、舞台中央へ投げ捨てた。
ジルコンはまだ信じられないでいる。
だが、目の前のロゼリアが、ロゼリアではないかもしれないという小さな疑惑の種が埋められた。
「今度は体術の演目にしましょう」
太鼓のリズムが変調する。
舞台が変わる。剣舞から体術へ演目が変わった。
再びふたりは吸い寄せられるように近づいた。
上と下と、叩き合わせる合間に、振り返りざまに、言葉を交わす。
「あれは、数年で終わったんだろ?そうアンジュが言っていたように思うんだが」
ロゼリアは悲しく笑った。
「アデールを出てエールに向かう途中で、アンジュが黒騎士たちの剣術の洗礼を受けたことを覚えている?」
「もちろん。あの時は二時間ぶっ通しでアンが黒騎士たちと勝負したんだ」
「アンには赤い傭兵から伝授された必殺の特技をもっているのも覚えている?」
「剣の重心を見抜いて、ある一点を狙って打てば、衝撃が大きく振動となって伝わり、しびれて持てなくなるというあれだろう?アヤが衝撃を受けて、みんなが試したがった。あの後、黒騎士たちはひそかに練習したみたいだが、意図した通りにはいかないようで、最近は聞かなくなったな」
「あれ、わたしもできるの」
「そんなに簡単にできるもんじゃないだろ」
「だから必死に練習した。今でも10回すれば8回は成功できると思う。次のターンの右の時にやるから覚悟して」
「冗談をいうなよ」
ジルコンは取り合わない。
二人は再び離れ、くるりと舞台を周り、そして近づいた。
上、下、左回転、左、そして、ロゼリアは狙った。
「右!」
闇を切り裂くような鋭い音が響いた。
ジルコンの剣はしっかりと握ったはずの手の中で震え、飛び跳ね、ぽとりと足元に落ちた。
何が繰り出されたかを知り、驚いたのは黒騎士たちである。
「アンのあの必殺技がでたの?」
アヤが身を乗り出した。
隣のジムに確認している。
ジルコンはしびれる手首を押さえ、その場に立ち尽くしていた。
すぐに剣を拾えない。
ロゼリアはそんなジルコンに構わず一人で舞台を周回する。
次のターンがすぐにやってくる。その時にはジルコンは剣を拾い上げて構えていた。
顔が引き締まり、ロゼリアの剣先から視線が離れない。
「強くいかせてもらう」
太鼓の音が二人のステップに合わせて早くなった。
繰り出される剣は早い。
上下打ち鳴らすと回転するのも速い。
振り向きざまに左右の剣が出される。
決められた場所を狙うとはいえ、ジルコンの剣筋には先ほどにはない気迫がこもっていた。
黒騎士たちもジュリアたちも、目の前でひらめく剣筋の鋭さに息を飲んだ。
まるで本気の試合のようであったからだ。
だが、彼らが心配したようにはロゼリアが打ちのめされたわけではない。
青灰色の眼は緊張の色を帯びているが、動作は機敏で力強かった。
ロゼリアの動作は、繰り返し練習し身体に覚えこませた動きのように思えた。
実戦のための、腰を落とした全方向へ対応できる動きである。
ロゼリアはジルコンから繰り出される鋭い攻撃を受け止め流した。
最後の左でロゼリアは狙う。
ジルコンの手から剣が、再び、生き物のように跳ね飛んだ。
足もとの地面にジルコンの剣は突き刺さる。
「あなたは、誰だ」
その声は震え、その目はあり得ないものを前にして、見開かれていた。
もはやジルコンにはこの場を楽しむ余裕もない。
ふたりがしているのが雨乞いの祈祷の剣舞であることも忘れた。
舞台を周回するロゼリアへ距離を詰めた。
行く手を塞ぎ、剣を奪うと、舞台中央へ投げ捨てた。
ジルコンはまだ信じられないでいる。
だが、目の前のロゼリアが、ロゼリアではないかもしれないという小さな疑惑の種が埋められた。
「今度は体術の演目にしましょう」
太鼓のリズムが変調する。
舞台が変わる。剣舞から体術へ演目が変わった。