男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
128、雨音
「本当に精霊が、大地の王、エールの王の願いを聞き届けて?予想より6日も早く雨が降るというの?」
ロゼリアは信じられずに天を仰ぐ。
「天に、神に、精霊に、我らの切なる願いが聞き届けられたんだ。俺たちが雨を呼んだ」
「わたしはあなたをずっと騙していた。途中からはあなたの心はずっと遠いところにあったのに?」
「ずっと俺の胸にしがみついて寝ながらうわごとのように赦しを懇願され続けられれば、俺は許すしかないだろう」
ロゼリアは夢の中でも謝り続けていたことを知り、顔が熱くなる。
ジルコンの眼はロゼリアの表情を心に刻み付けるかのようにじっと見つめた。
赤面する顔を隠そうにも、ジルコンの腕はほどけない。だからジャケットの胸に額を押し付けた。
ずっとこの腕と胸の中で、抱きしめられていたのだ。
「俺はあなたに勝てないし、あなたに怒り続けることもできないようだ」
「それは、どうして?」
「はあ?どうしてって」
ロゼリアの頬を両側から挟み込み優しく上に向けさせた。
濃紺の、あきれながらも真剣な目がロゼリアの心の奥を覗き込む。
「あなたが男であっても女であっても、もう二度とこの腕の中から逃がさないと決めたからだ」
それからのキスは約束のキスであり、己の愛を伝え合うキスであり、相手を丸ごと受け入れるキスだった。
ジルコンの首にまわした手の甲に、冷たい雨粒が一粒落ちた。
重い音を立てて乾いた地面に、雨が丸い模様を描き始める。
持ち主が夢の中にいるために足の間で忘れ去られていた太鼓のピンと張った革に、雨粒は落ちていく。太鼓はトンと軽快に弾かれた。
続けてリズミカルに。
トントントトントン。
挑戦的な雨粒の太鼓のリズムを耳にして、ジルコンとロゼリアは笑みでキスをしていられなくなる。
なぜなら、二人とも思ったことはまったく同じ。
手を繋いだまま、二人して飛び上がって何度か地面を軽く踏み鳴らす。
楽団の若者は目が覚めた。
叩きもしないのに自分の太鼓が勝手に音を出していたからだ。
膝のあいだにすえ直したその太鼓に、再び、ダンダンダダダンダン、と大粒の雨が連打する。
ジルコンとロゼリアは満面の笑顔で今度はさらに強く、雨の太鼓のリズムで地団駄踏んだ。
とうとう舞台を見守る役目の者たちは冷たい雨が落ちた頬をぬぐう。目をこする。ガチガチの肩をまわし伸びをする。彼らは周囲を見回した。
青の衣の黒騎士たちと、白の娘たち、楽団の若者たちはあたふたと居住まいを正した。
彼らは自分たちに降りかかる雨の冷たさに、雨の太鼓に、仲間の様子に、舞台の真ん中で雨に濡れる大地を踊るように、叩くように踏みめ楽しく笑う声の主たちに、自分たちが何をしていたかを思い出した。
熟睡した自分たちは大失態だが、雨乞いの祈願は続いていたのだ。
「一晩中二人は踊り続けたというの?本当に?それでこの雨が降ったっていうの!?それはまるで奇跡だわ!」
誰もがそう思って言えないことをズバリと言ってのけるのは、やはりどこか空気を読めないベラ。
奇跡だと口々につぶやかれた。どよめきが雨音に混ざった。
ジルコンとロゼリアは顔を見合わせ声をあげて笑う。
「ロゼリア!本気のワルツが俺たちの神事の締めだ!」
「わかったわ!」
二人は再び体を密着させた。
まるで生まれたときからひとつの身体のようだった。二人は周囲に笑顔をふりこぼすつむじ風のように、ワルツを踊る。
一晩中踊っていたとは思えないほど優雅で艶やか。
ぐるりと一周するとジルコンは叫んだ。
「これで雨乞い祈願は終わりだ!後のことはお前たちに任せた!」
神事の舞台は幕をおろす。
エール王家の雨乞い祈願が一晩で成功したことは、雨音に外に飛び出した誰もが知るところになる。
雨はエールの森だけでなく、エール全土、エールを超えて森と平野の国々に、ときに激しく稲妻を轟かせながら、あまねく降り注いだのである。
※
舞台を飛び出したジルコンとロゼリアは、テントの中になだれ込んだ。ロゼリアはベッドに飛び込んだ。
ジルコンは乱暴にブーツを脱ぎ捨て、ジャケットの留め具を引きちぎるようにして脱いだ。
その青い目は、ベッドの上のロゼリアを、どこにも逃さぬように見つめ続ける。
ジルコンはシャツも脱ぎ上半身裸になると、ベッドに膝を進めロゼリアの両脚をまたぐ。
滝のときは、脚で押し戻されてしまった。
今度こそ気が変わっても逃れる余地がないように、しっかりと両膝で挟み込む。
これだと腰を落とせば体重をかけることもできる。押さえつけることもできるのだ。
ジルコンは、ロゼリアのワンピースを裾から掴んで、ずり上げていく。
白い太ももが、引き締まったウエストが、くるりと丸いヘソが現れた。
ジルコンの心臓は、先ほどから制御不能に叩き続ける。
はやる心を即座に落ち着けなければならなかった。
ロゼリアは信じられずに天を仰ぐ。
「天に、神に、精霊に、我らの切なる願いが聞き届けられたんだ。俺たちが雨を呼んだ」
「わたしはあなたをずっと騙していた。途中からはあなたの心はずっと遠いところにあったのに?」
「ずっと俺の胸にしがみついて寝ながらうわごとのように赦しを懇願され続けられれば、俺は許すしかないだろう」
ロゼリアは夢の中でも謝り続けていたことを知り、顔が熱くなる。
ジルコンの眼はロゼリアの表情を心に刻み付けるかのようにじっと見つめた。
赤面する顔を隠そうにも、ジルコンの腕はほどけない。だからジャケットの胸に額を押し付けた。
ずっとこの腕と胸の中で、抱きしめられていたのだ。
「俺はあなたに勝てないし、あなたに怒り続けることもできないようだ」
「それは、どうして?」
「はあ?どうしてって」
ロゼリアの頬を両側から挟み込み優しく上に向けさせた。
濃紺の、あきれながらも真剣な目がロゼリアの心の奥を覗き込む。
「あなたが男であっても女であっても、もう二度とこの腕の中から逃がさないと決めたからだ」
それからのキスは約束のキスであり、己の愛を伝え合うキスであり、相手を丸ごと受け入れるキスだった。
ジルコンの首にまわした手の甲に、冷たい雨粒が一粒落ちた。
重い音を立てて乾いた地面に、雨が丸い模様を描き始める。
持ち主が夢の中にいるために足の間で忘れ去られていた太鼓のピンと張った革に、雨粒は落ちていく。太鼓はトンと軽快に弾かれた。
続けてリズミカルに。
トントントトントン。
挑戦的な雨粒の太鼓のリズムを耳にして、ジルコンとロゼリアは笑みでキスをしていられなくなる。
なぜなら、二人とも思ったことはまったく同じ。
手を繋いだまま、二人して飛び上がって何度か地面を軽く踏み鳴らす。
楽団の若者は目が覚めた。
叩きもしないのに自分の太鼓が勝手に音を出していたからだ。
膝のあいだにすえ直したその太鼓に、再び、ダンダンダダダンダン、と大粒の雨が連打する。
ジルコンとロゼリアは満面の笑顔で今度はさらに強く、雨の太鼓のリズムで地団駄踏んだ。
とうとう舞台を見守る役目の者たちは冷たい雨が落ちた頬をぬぐう。目をこする。ガチガチの肩をまわし伸びをする。彼らは周囲を見回した。
青の衣の黒騎士たちと、白の娘たち、楽団の若者たちはあたふたと居住まいを正した。
彼らは自分たちに降りかかる雨の冷たさに、雨の太鼓に、仲間の様子に、舞台の真ん中で雨に濡れる大地を踊るように、叩くように踏みめ楽しく笑う声の主たちに、自分たちが何をしていたかを思い出した。
熟睡した自分たちは大失態だが、雨乞いの祈願は続いていたのだ。
「一晩中二人は踊り続けたというの?本当に?それでこの雨が降ったっていうの!?それはまるで奇跡だわ!」
誰もがそう思って言えないことをズバリと言ってのけるのは、やはりどこか空気を読めないベラ。
奇跡だと口々につぶやかれた。どよめきが雨音に混ざった。
ジルコンとロゼリアは顔を見合わせ声をあげて笑う。
「ロゼリア!本気のワルツが俺たちの神事の締めだ!」
「わかったわ!」
二人は再び体を密着させた。
まるで生まれたときからひとつの身体のようだった。二人は周囲に笑顔をふりこぼすつむじ風のように、ワルツを踊る。
一晩中踊っていたとは思えないほど優雅で艶やか。
ぐるりと一周するとジルコンは叫んだ。
「これで雨乞い祈願は終わりだ!後のことはお前たちに任せた!」
神事の舞台は幕をおろす。
エール王家の雨乞い祈願が一晩で成功したことは、雨音に外に飛び出した誰もが知るところになる。
雨はエールの森だけでなく、エール全土、エールを超えて森と平野の国々に、ときに激しく稲妻を轟かせながら、あまねく降り注いだのである。
※
舞台を飛び出したジルコンとロゼリアは、テントの中になだれ込んだ。ロゼリアはベッドに飛び込んだ。
ジルコンは乱暴にブーツを脱ぎ捨て、ジャケットの留め具を引きちぎるようにして脱いだ。
その青い目は、ベッドの上のロゼリアを、どこにも逃さぬように見つめ続ける。
ジルコンはシャツも脱ぎ上半身裸になると、ベッドに膝を進めロゼリアの両脚をまたぐ。
滝のときは、脚で押し戻されてしまった。
今度こそ気が変わっても逃れる余地がないように、しっかりと両膝で挟み込む。
これだと腰を落とせば体重をかけることもできる。押さえつけることもできるのだ。
ジルコンは、ロゼリアのワンピースを裾から掴んで、ずり上げていく。
白い太ももが、引き締まったウエストが、くるりと丸いヘソが現れた。
ジルコンの心臓は、先ほどから制御不能に叩き続ける。
はやる心を即座に落ち着けなければならなかった。