男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
勢いのままにロゼリアを奪うことはできない。ロゼリアは今後、己に拒絶反応を示すかもしれないからだ。
彼女はうぶで、己の大事な人。
嫌な思いなど絶対にさせたくない。
だが、愛する娘の前に鎮められそうにないのは男の性。
布切れのようにまとめたシルクのワンピースから頭を抜く。
あとは服が絡むしなやかな両手を引き抜けば、裸も同然。
身体を開き、己の欲望をロゼリアに飲み込ませるときに嫌がり逃れようとしても抵抗できないようにするために、娘の腕をこのまま拘束してしおきたいという衝動と、ジルコンは戦わねばならなかった。
身体の下に、荒い息に胸を弾ませきらきら宝石のように瞳を輝かせた美しい娘がいた。
薄くて透けたシルクの上下の下着は、その美しい肢体を守るというよりもむしろ、ジルコンの欲望の暴走を煽る役目しかない。
ロゼリアは、先ほどまで共に笑っていたジルコンの、別人のように黒くけぶる目に見つめられ、二人と外とを隔てるものがわずかに帆布一枚だということを忘れた。
ジルコンはキスを口だけでなくいたるところにしたいのだと思った。
ロゼリアはワンピースから手を引き抜き伸ばした。
ジルコンの胸に触れる。
音が聞こえそうなほど心臓が踊っていた。
「来て」
ジルコンの手が腹から滑りあがった。肌着の下から直接胸に触れる。
汗と雨で湿った、熱い手は強くて大きい。
ロゼリアもジルコンの胸に手を添えて、ジルコンがしているのようにその胸にキスがしたいと思った。
そういうと、少し驚いた顔がロゼリアを見上げ、破顔する。
その笑顔で、全身の力が抜け落ちた。身体の芯が震えた。
ジルコンの身体はずり上がり、ロゼリアの唇を求める。
そして唇のキスの次は?
ロゼリアは、不意にのしかかってきた重さに呻いた。
ジルコンの顔から笑顔が消ていた。
葛藤と苦悩の表情が浮かんでいる。
「ロズ、ごめん、身体が、どうしようもなく重い。眠い。昨夜は一睡もしてない。俺の意志をフル導引しても、叱咤激励しても、これ以上自分の身体を、指先を、一ミリもいうことをきかせられそうにない。だから、本当にごめん。今は許してくれ。ロズが、せっかくその気になってくれているのに、なんて失態だ。目覚めたら、続きを必ず……。俺のロズ、どこにもいかないでくれ……」
ロゼリアは窒息しそうになって、ジルコンの身体の下から這い出し横に逃れた。
ジルコンの眼はしっかりと閉じられ、既に寝息を立てている。
「うそ、本当に寝てしまったの?」
昨夜、ロゼリアはジルコンの胸の中で眠ったが、ジルコンはそのロゼリアを夜通し支えていたのだ。
疲れているのも当然ではないか。
最後のワルツで力を使い果たしてしまったのだ。
ロゼリアはため息をついた。
ジルコンの右腕は、ロゼリアの身体を爆睡していても離してくれそうにない。
帆布の向こうで、人々が舞台を片付ける音がしている。
王子はどこに、ロゼリアさまもご一緒で、このまましばらくふたりで、これから忙しくなる、など切れ切れに聞こえてくる。
黒騎士たちはすぐ近く、この二人だけの空間のすぐ向こうにいた。
彼らも昨夜の剣舞でロゼリアがアンであったことを知っただろう。
彼らにも謝らなければならないと思った。
目を閉じると、すぐにあくびがでる。
睡魔はロゼリアにもゆるゆると触手を伸ばしてきた。
帆布を叩きつける無数の雨音の中、ジルコンとロゼリアは体を擦り寄せて熟睡したのだった。
彼女はうぶで、己の大事な人。
嫌な思いなど絶対にさせたくない。
だが、愛する娘の前に鎮められそうにないのは男の性。
布切れのようにまとめたシルクのワンピースから頭を抜く。
あとは服が絡むしなやかな両手を引き抜けば、裸も同然。
身体を開き、己の欲望をロゼリアに飲み込ませるときに嫌がり逃れようとしても抵抗できないようにするために、娘の腕をこのまま拘束してしおきたいという衝動と、ジルコンは戦わねばならなかった。
身体の下に、荒い息に胸を弾ませきらきら宝石のように瞳を輝かせた美しい娘がいた。
薄くて透けたシルクの上下の下着は、その美しい肢体を守るというよりもむしろ、ジルコンの欲望の暴走を煽る役目しかない。
ロゼリアは、先ほどまで共に笑っていたジルコンの、別人のように黒くけぶる目に見つめられ、二人と外とを隔てるものがわずかに帆布一枚だということを忘れた。
ジルコンはキスを口だけでなくいたるところにしたいのだと思った。
ロゼリアはワンピースから手を引き抜き伸ばした。
ジルコンの胸に触れる。
音が聞こえそうなほど心臓が踊っていた。
「来て」
ジルコンの手が腹から滑りあがった。肌着の下から直接胸に触れる。
汗と雨で湿った、熱い手は強くて大きい。
ロゼリアもジルコンの胸に手を添えて、ジルコンがしているのようにその胸にキスがしたいと思った。
そういうと、少し驚いた顔がロゼリアを見上げ、破顔する。
その笑顔で、全身の力が抜け落ちた。身体の芯が震えた。
ジルコンの身体はずり上がり、ロゼリアの唇を求める。
そして唇のキスの次は?
ロゼリアは、不意にのしかかってきた重さに呻いた。
ジルコンの顔から笑顔が消ていた。
葛藤と苦悩の表情が浮かんでいる。
「ロズ、ごめん、身体が、どうしようもなく重い。眠い。昨夜は一睡もしてない。俺の意志をフル導引しても、叱咤激励しても、これ以上自分の身体を、指先を、一ミリもいうことをきかせられそうにない。だから、本当にごめん。今は許してくれ。ロズが、せっかくその気になってくれているのに、なんて失態だ。目覚めたら、続きを必ず……。俺のロズ、どこにもいかないでくれ……」
ロゼリアは窒息しそうになって、ジルコンの身体の下から這い出し横に逃れた。
ジルコンの眼はしっかりと閉じられ、既に寝息を立てている。
「うそ、本当に寝てしまったの?」
昨夜、ロゼリアはジルコンの胸の中で眠ったが、ジルコンはそのロゼリアを夜通し支えていたのだ。
疲れているのも当然ではないか。
最後のワルツで力を使い果たしてしまったのだ。
ロゼリアはため息をついた。
ジルコンの右腕は、ロゼリアの身体を爆睡していても離してくれそうにない。
帆布の向こうで、人々が舞台を片付ける音がしている。
王子はどこに、ロゼリアさまもご一緒で、このまましばらくふたりで、これから忙しくなる、など切れ切れに聞こえてくる。
黒騎士たちはすぐ近く、この二人だけの空間のすぐ向こうにいた。
彼らも昨夜の剣舞でロゼリアがアンであったことを知っただろう。
彼らにも謝らなければならないと思った。
目を閉じると、すぐにあくびがでる。
睡魔はロゼリアにもゆるゆると触手を伸ばしてきた。
帆布を叩きつける無数の雨音の中、ジルコンとロゼリアは体を擦り寄せて熟睡したのだった。