男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
「そんなこと、意気地なしのレオが、できるはずがないでしょう!それに、あなたは運動神経だってあやしいんだから!」
 ベラは怒りながら叫び返した。
 ロレットとイリスを両脇に抱えて部屋に押し戻す。
 後ろ手に勢い良く閉めた。
 バタンと大きな音が響いた。姫らしからぬ騒音であるが、誰も気にしていない。その事よりも、公開告白である。

「どうするの?あんた、いま、あのおとなしかったレオに、公開告白、夜這い宣言、略奪宣言をされていたわよ!」
 イリスが自分のことのように興奮している。
 ベラは首を激しく振った。
 口を引き結び顔は真っ赤。
 大きな目には涙がにじみはじめた。

「だから、パジャンに行くのは無理なの。どうしてわかってくれないのよ、レオのくせに!」
「自分の気持ちをはっきりと伝えられるのは、意気地なしじゃできないと思うよ。レオは格好よくなったね。ベラが羨ましいぐらいだわ」
 ロゼリアはぽつりという。
「ロズこそ、羨ましいってことはないんじゃないですか?ジルコン王子はどんな風に、ロズに結婚を申し込みされたのですか?」
 ロゼリアの言葉に反応したのはロレット。
 ベッドのロゼリアに詰め寄った。
「そうよ、それが知りたかったの!」
 イリスも食い付いてきた。
 その目が輝いている。
 イリスはいつからか、ロゼリアの恋を応援する方向へ変わっていた。
「え、ひと様にいえるようなものがあるわけでもなくて……」
 ロゼリアは歯切れ悪くもごもごという。
 シーツを胸元まで引き上げた。

 友人たちはロゼリアを逃さない。
 ここにこうして集まれるのもこれが最後なのだ。

 パジャンのメンバーは明日帰路につく。
 ロレットも、イリスも、ベラも、もう王都に滞在する理由はない。
 既に旱魃の対応のために多くの者たちが帰国している状況で、今年の夏スクールは終了だった。雨が降ったからそれで終わりではなかった。旱魃の被害の現状の把握と回復のために、若者たちがしなければならないことも多いのだ。問題に対して自主的に活動することも学んだことの一つである。

「なにも言われていないの」
「はい?」
「ジルコンから結婚の申し込みはされていないわ」

 とうとうロゼリアは言った。
 嘘は言っていない。
 よくよく思い返しても、雨乞いの神事の間、ロゼリアは心を分けた妻役の代役ではあったが、ジルコンから結婚の話は出てこなかったではないか。
 あれから、ジルコンをララが足止めしていることもあり、直接会っていないのだ。

「ええ?でも王都でも、王と王妃と、王子と未来の妻アデールの姫の、雨乞いの奇跡の話で持ち切りなのに?婚約無期限延長のままだというの!?」
 レオの時の衝撃よりも、さらに大きな衝撃を受けて、ベラの涙は止まっている。
 ロゼリアは居たたまれなくなった。
 涙の混ざる鼻水を盛大にかんだのだった。



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