男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子
133、成婚
王城に勤める者の朝は早い。
女官次長のララもその一人で女官たちの朝の無断欠席はないか、朝食の準備が進んでいるか、今日の予定は何があるのか確認する。
それらをすべて終えて、アデールの姫のところへ向かった。
ララは、自分が姫の世話に命じられたことの意味を把握している。
姫を王子が目を離せなくなるような、魅力的な妃候補に仕立て上げること。
初めて会った時、ララは衝撃をうけた。
容貌は美しいといえた。
だが、口を開き、歩きだせば、色気がない。
スカートをはく少年のようだと思った。
アデールの姫と比べれば今年入った女官見習いでさえ、もっと優雅で洗練された雰囲気をもっているではないか。
ジルコン王子はあまり女に興味がないとはいえ、若かりし頃のフォルス王に似た容貌である。
力にものを言わせるフォルスと違って、別の道を探ろうともがき試行錯誤する彼は、彼らの時代の可能性をさぐっていた。
次の世を思い描く彼の行動力は、男も女も巻き込んだ。
ララの目からみても、女は彼をほっておかないだろうと思う。
ジルコン王子の妻になる娘には、必ず備えるべき資質がある。
払っても払っても手を変え品を変えて群がる美女たちを、なおも払い続けるか、平然と受け入れるだけの、強さを持ちあわせていることだ。
強さを支えるのは、ジルコン王子との間に二人が築いていく愛になるだろう。
だから、妃になるだけの決意と覚悟がなく、ジルコンの愛情を得られないのならば、早々にあきらめる方がいいと、ララは思う。
彼女に課した課題は、肉体的に苛酷で、周囲の目には奇異にみられるだろう。
この程度でくじけるのならば、婚約破棄の莫大な賠償金を手にして田舎の国へ逃げ帰ればいいとさえ思う。
アデールの姫はその肌がフラワーウォーターやローズオイルを吸収して美しく整っていくように、ララの言葉をどんどん吸収しその身に優雅さを備えていく。
王子が姫に目を向ける時間も、どんどん長くなっていた。
それと同時に、パジャンのリーダーの王子がアデールの姫をじっと見つめていた。
ジルコン王子の心は確実に娘にあると確信したのは、鎮魂祭でアデールの姫が目の前でさらわれた時。
ララも取り乱したが、ジルコン王子の取り乱しようはそれに輪をかけて、尋常ではなかった。
目撃者から追跡が始まる。
それからの姫の確保に至る人の采配も行動も見事で鮮やか。
目を傷めた娘を誰にも触れさせなかった。
抱いて離さない姿には心を打たれた。
事後の裏路地の風紀や貧しくて不正に手をそめなければ生きていけない子供たちの保護は、迅速で、裏路地の雰囲気はあれから一変してしまった。
だから、キスの課題で、成功しつつもキスが一回だったことは意外だった。
アデールの姫は不安を募らせる。
姫は恋する娘がそうであるように、一喜一憂を日々繰り返す。
ララが見る限り、問題は、ジルコン王子の側にある。
愛を伝えるのが不器用であるということ。
好意を努力しなくても得られるエールの王子に生まれついた傲慢さが邪魔をしていた。
それに、男は愛がなくても女を抱ける。
抱かれた女は男の愛を容易く信じてしまう。
そして、男は愛があればこそ女を抱くのをためらわれてしまう。
抱いた女を傷つけてしまうこともあるからだ。
そんな王子の側に難しい事情があることをわからないわけではない。
アデールの姫も察しなければならないところがある。
雨乞い祈願の、代役の王子の心を分けた者として指名されたのが自分あるのならば、100人の女がいれば100人とも王子の愛を確信するところであるはずなのに。
雨に濡れて帰ってきた娘は気落ち気味。
どうも、王子は、「キスの続き」をする前に爆睡してしまったらしい。
ララはそれを聞き、返って王子が哀れに思えたのだった。
アデールの姫は、王子からの結婚の言葉を欲している。
婚約無期限延期という、実質の婚約破棄を経験しているので当然ともいえるのだが。
姫に熱く視線を向ける男の存在がある今、ジルコン王子は一刻でも早く、結婚するのかしないのか、アデールの姫との関係をどうしたいのかはっきりと伝えるべきである。
言葉でもしくは行動で。
会えない時間に恋人たちは想いを募らせるという。
ジルコン王子が煮え切らない態度の一方で、アデールの姫に恋するもう一人の男の帰国が決まった。
期限がきまった。
ラシャール王子も傍観している場合でなくなった。
しっかりと姫の心をつかみ切れていない中、ラシャールに先を越されば、エールの王子は永遠に愛する娘を失う未来がある。
昨夜が正念場であった。
状況を読んで行動できない男には、大国になったエールの国は任せられないとララは思うのだ。
だから。
ララはタライをもってアデールの姫の扉を叩いた。
女官次長のララもその一人で女官たちの朝の無断欠席はないか、朝食の準備が進んでいるか、今日の予定は何があるのか確認する。
それらをすべて終えて、アデールの姫のところへ向かった。
ララは、自分が姫の世話に命じられたことの意味を把握している。
姫を王子が目を離せなくなるような、魅力的な妃候補に仕立て上げること。
初めて会った時、ララは衝撃をうけた。
容貌は美しいといえた。
だが、口を開き、歩きだせば、色気がない。
スカートをはく少年のようだと思った。
アデールの姫と比べれば今年入った女官見習いでさえ、もっと優雅で洗練された雰囲気をもっているではないか。
ジルコン王子はあまり女に興味がないとはいえ、若かりし頃のフォルス王に似た容貌である。
力にものを言わせるフォルスと違って、別の道を探ろうともがき試行錯誤する彼は、彼らの時代の可能性をさぐっていた。
次の世を思い描く彼の行動力は、男も女も巻き込んだ。
ララの目からみても、女は彼をほっておかないだろうと思う。
ジルコン王子の妻になる娘には、必ず備えるべき資質がある。
払っても払っても手を変え品を変えて群がる美女たちを、なおも払い続けるか、平然と受け入れるだけの、強さを持ちあわせていることだ。
強さを支えるのは、ジルコン王子との間に二人が築いていく愛になるだろう。
だから、妃になるだけの決意と覚悟がなく、ジルコンの愛情を得られないのならば、早々にあきらめる方がいいと、ララは思う。
彼女に課した課題は、肉体的に苛酷で、周囲の目には奇異にみられるだろう。
この程度でくじけるのならば、婚約破棄の莫大な賠償金を手にして田舎の国へ逃げ帰ればいいとさえ思う。
アデールの姫はその肌がフラワーウォーターやローズオイルを吸収して美しく整っていくように、ララの言葉をどんどん吸収しその身に優雅さを備えていく。
王子が姫に目を向ける時間も、どんどん長くなっていた。
それと同時に、パジャンのリーダーの王子がアデールの姫をじっと見つめていた。
ジルコン王子の心は確実に娘にあると確信したのは、鎮魂祭でアデールの姫が目の前でさらわれた時。
ララも取り乱したが、ジルコン王子の取り乱しようはそれに輪をかけて、尋常ではなかった。
目撃者から追跡が始まる。
それからの姫の確保に至る人の采配も行動も見事で鮮やか。
目を傷めた娘を誰にも触れさせなかった。
抱いて離さない姿には心を打たれた。
事後の裏路地の風紀や貧しくて不正に手をそめなければ生きていけない子供たちの保護は、迅速で、裏路地の雰囲気はあれから一変してしまった。
だから、キスの課題で、成功しつつもキスが一回だったことは意外だった。
アデールの姫は不安を募らせる。
姫は恋する娘がそうであるように、一喜一憂を日々繰り返す。
ララが見る限り、問題は、ジルコン王子の側にある。
愛を伝えるのが不器用であるということ。
好意を努力しなくても得られるエールの王子に生まれついた傲慢さが邪魔をしていた。
それに、男は愛がなくても女を抱ける。
抱かれた女は男の愛を容易く信じてしまう。
そして、男は愛があればこそ女を抱くのをためらわれてしまう。
抱いた女を傷つけてしまうこともあるからだ。
そんな王子の側に難しい事情があることをわからないわけではない。
アデールの姫も察しなければならないところがある。
雨乞い祈願の、代役の王子の心を分けた者として指名されたのが自分あるのならば、100人の女がいれば100人とも王子の愛を確信するところであるはずなのに。
雨に濡れて帰ってきた娘は気落ち気味。
どうも、王子は、「キスの続き」をする前に爆睡してしまったらしい。
ララはそれを聞き、返って王子が哀れに思えたのだった。
アデールの姫は、王子からの結婚の言葉を欲している。
婚約無期限延期という、実質の婚約破棄を経験しているので当然ともいえるのだが。
姫に熱く視線を向ける男の存在がある今、ジルコン王子は一刻でも早く、結婚するのかしないのか、アデールの姫との関係をどうしたいのかはっきりと伝えるべきである。
言葉でもしくは行動で。
会えない時間に恋人たちは想いを募らせるという。
ジルコン王子が煮え切らない態度の一方で、アデールの姫に恋するもう一人の男の帰国が決まった。
期限がきまった。
ラシャール王子も傍観している場合でなくなった。
しっかりと姫の心をつかみ切れていない中、ラシャールに先を越されば、エールの王子は永遠に愛する娘を失う未来がある。
昨夜が正念場であった。
状況を読んで行動できない男には、大国になったエールの国は任せられないとララは思うのだ。
だから。
ララはタライをもってアデールの姫の扉を叩いた。